皆で楽しく生きる仕組みを作る-高知県梼原町四万川地区

農村RMO事例
皆で楽しく生きる仕組みを作る
集落活動センター「四万川」の取り組み
高知県梼原町四万川地区
愛媛県との県境にある韮ケ峠。坂本龍馬脱藩の地で知られる
梼原町と縁のある維新の志士たちの銅像
梼原町と縁のある維新の志士たちの銅像

高知県梼原町四万川区の概要

高知県梼原町の最北部にある四万川地区は、東西に分散する13集落で構成されており、愛媛県(西予市)との県境に位置する。人口は462人で世帯数は243、高齢化率は56.3%(2022〈令和4〉年4月末)と高齢化が進んでいる(区内の神の山集落の高齢化率は最も高く100%)。一方で四万川地区は、2010(平成22)年度に梼原町が独自に行った住民へのアンケート調査では、「不便を解消したら住み続けたい」「不便でも住み続けたい」と回答した人の合計は約9割と、地元に対する愛着が非常に強い地域である。
高知県梼原町四万川区

集落活動センター「四万川」と「株式会社四万川」の設立

高齢化が進行している中で、2013(平成25)年に四万川地区内で唯一の個人経営のガソリンスタンドが、地下タンクの改修で多額の費用が必要になったことや経営者の高齢などを理由に閉鎖されることとなり、住民は大きな衝撃を受ける。標高が高く高知県内でも積雪の多い四万川地区では、ガソリンと灯油の安定供給は不可欠だ。この難題を解決しようと住民や関係者で話し合いを重ね、集落活動センターの立ち上げとその運営主体として株式会社を設立することが決まった。
集落活動センター「四万川」の立ち上げでは、区長、副区長、四万川区選出の梼原町議会議員、住民代表者らで構成された推進委員会が設立され、①地域で楽しくお金を稼ぐ仕組み ②地域住民が主体となって支え合い、助け合うことができる仕組み③活動している団体の取り組みを支援し、発展につなげる仕組みーの三つの仕組みを作ることを方針に掲げ、活動の拠点は「四万川交流センター」に設定した。
続いて、上記推進委員会の委員17人が発起人となり、運営主体として株式会社「四万川」が設立された。住民の意識を高めることを目的に1株1万円の株券が発行され、174人の住民と四万川区の計175人が株主となり、出資金800万円で営業が開始された。主な事業は、①ガソリン、軽油、灯油など石油製品の販売 ②一般乗用車自動車運送事業 ③日用雑貨および食料品など全24項目の販売。設立後、集落活動センター「四万川」の推進事業の採択を受け、ガソリンスタンドの整備や地場産品販売所、観光案内所、太陽光発電施設併設による複合型燃料供給施設の整備を行っている。
22(令和4)年には農村RMOの制度を導入し、さらに事業展開を進めている。事業主体は集落活動センター「四万川」推進委員会で、事務局は株式会社四万川。構成員は、四万川区(全体調整、事業の実施)、中山間直接支払集落協定(農地の保全活動)、四万川お茶堂の会(棚田オーナー制度の実施)、株式会社四万川(ガソリンスタンド、生活用品や農機具の店舗、直販所の運営)、竜王営農組合(集落営農活動の実施)。梼原町役場や高知県地域支援企画員(梼原町担当)など関係機関が伴走として支援する。

農用地保全

3つの農村集落機能 生産 資源 生活
キジ肉の生産・販売 遊休農地を稲田に
町の特産品としてキジ肉を35年の間、生産や加工、販売を行ってきた梼原町雉生産組合がスタッフの高齢化などによって解散することになった。しかし、四万川区民からの継続の強い要望を受け、2021(令和3)年に集落活動センター「四万川」が同事業を継承することとなった。現在は、「株式会社四万川」の雉生産部が生産を請け負っている。取り扱うキジの品種はコウライキジで、首に白い輪があるのが特徴。スタッフは、集落支援員1人、パート職員2人で運営している。
集落活動センター「四万川」推進委員会の空岡則明会長は、「22(令和4)年度は1200羽のキジ肉を飼育しています。現在、新しい飼育施設を建築中で、次年度には3200羽を生産できる見込みです。キジは雑食で配合飼料のほか、地元産の農作物やワイナリーから提供された地元産ブドウの絞りかすを与えています。売上げは年間3500万円を目指します」と抱負を語った。
四万十川の源流域で標高500~600メートルに位置する四万川地区は、良い水と日中の寒暖差という良質のコメができる条件に恵まれており、さらに刈り取ったコメを稲木に干して天然乾燥させることで風味が増し、おいしいと評判。5年前に遊休農地を活用し、コメ作りと販売を開始した。現在は個人が請け負っているが、「いずれ集落営農法人を立ち上げる予定」(空岡さん)。
「株式会社四万川」は、ガソリンスタンドに地場産品の販売目的で併設された「しまがわ市場」を常勤職員2人、パート職員3人で運営しており、雇用も創出している。地元農家の産直野菜や農業用資材、生活物資などを販売。地産のコメは、「雲の上の稲木米」という名前で、常時購入できる。
株式会社四万川雉生産部の加工施設
株式会社四万川雉生産部の加工施設
建築中のキジ肉新加工施設。2023(令和5)年3月完成
建築中のキジ肉新加工施設。2023(令和5)年3月完成
「株式会社四万川」運営のガソリンスタンド内にある「しまがわ市場」
「株式会社四万川」運営のガソリンスタンド内にある「しまがわ市場」
「しまがわ市場」で販売されている「雲の上の稲木米」
「しまがわ市場」で販売されている「雲の上の稲木米」

地域資源活用

3つの農村集落機能 生産 資源 生活
ガソリンスタンド運営 坂本龍馬脱藩の地
集落活動センター「四万川」の発足の契機となったガソリンスタンドの存続にあたっては、新しく店舗施設を整備するために必要な費用を、高知県と四万川区が手当てし、2014(平成26)年4月に営業を再開した。
「オープンの時は給油の車が並び、感無量でした」と空岡会長は当時を振り返る。現在は他の集落からもお客さんが訪れるという。
「株式会社四万川」(集落活動センター「四万川」)が運営するガソリンスタンド
「株式会社四万川」(集落活動センター「四万川」)が運営するガソリンスタンド
町内には幕末に活躍した6人の志士の墓地があり、坂本龍馬や吉村虎太郎らが脱藩するために通った韮ケ峠の道など志士縁の地が当時の趣のまま数多く残っている。
この維新の足跡を観光資源として活用し地域活性化につなげようと、ガソリンスタントから韮ケ峠まで坂本龍馬脱藩の道、約10キロを歩く「脱藩ウオーク」を毎年開催している。このほか、株式会社四万川が町と管理委託契約を結び、韮ケ峠にあるトイレの設備点検や取水地タンクの清掃、トイレや周辺の清掃などを行っている。
愛媛県との県境(奥)にある韮ケ峠。坂本龍馬が脱藩時に通った地と伝えられる
愛媛県との県境(奥)にある韮ケ峠。坂本龍馬が脱藩時に通った地と伝えられる
四万川地区には坂本龍馬が脱藩時に歩いたと伝わる道が数多く残る
四万川地区には坂本龍馬が脱藩時に歩いたと伝わる道が数多く残る

生活支援

3つの農村集落機能 資源 生産 生活
遊休施設を多目的施設に デイサービス事業
廃園となっていた旧四万川幼稚園の施設の内部を2018(平成30)年に改修し、地域の葬儀や会議、避難所など多目的に利用している。町内外との交流の拠点として有効活用しながら地域経済の循環と地域の魅力向上につなげる。地域の要望を受けて始めた葬祭事業は地元スタッフの協力により、これまで約30件の葬儀が行われている。多目的ホールができたことで、住民から「自宅では葬儀ができないと思っていたので安心で避難所としても活用したい」などの声が届いている。
 介護予防事業では、「生きがいデイサービス事業」を14(平成26)年から集落活動センター「四万川」推進委員会が町から運営委託(毎年度更新)を受け、デイサービスのほか、教養講座や健康相談、健康作りのための運動、創作活動なども行っている。
集落活動センター「四万川」の本部。デイサービスや診療所としても活用されている
集落活動センター「四万川」の本部。デイサービスや診療所としても活用されている
災害時には避難所となる旧四万川小学校。調理室を活用し、配食サービスも
災害時には避難所となる旧四万川小学校。調理室を活用し、配食サービスも
四万川地区多目的施設。多目的ホールで葬儀が行われる
四万川地区多目的施設。多目的ホールで葬儀が行われる
 「四万川交流センター」では地域通貨も取り扱っている
 「四万川交流センター」では地域通貨も取り扱っている

空岡会長に聞く
キジ肉のブランド力のアップを

集落活動センター「四万川」推進委員会も設立から今年で10周年を迎えます。これから1年かけて、これまでの取り組みを検証してみたい。
これから取り組むこととしては、まずはキジ肉のブランド力のアップと生産・販売量の拡大です。梼原町出身で県外のレストランの総料理長のシェフの方にキジ肉の商品開発のお願いをしています。現在建築中の新しい加工施設ができれば新商品の開発を進め、製造・販売を積極的に進めていきたい。
また、地域を守るために現在行っている事業を将来的に成功させたい。
空岡会長と活動拠点の「株式会社四万川」(集落活動センター「四万川」)
空岡会長と活動拠点の「株式会社四万川」
(集落活動センター「四万川」)

地域の紹介~
高知県梼原町

梼原町は高知県北西部の四国山地西端に位置し、愛媛県境にまたがる四国カルスト高原を有する山間の町だ。「雲の上のまち」と呼ばれている。人口は3375人、高齢化率は43.9%(2021〈令和3〉年3月末)。県庁所在地の高知市から約80キロ、車で約1時間半の距離にある。地勢は町の面積の9割が森林で、梼原川と四万川川は清流四万十川の源流域である。
当地は幕末の志士と縁が深く、町内に墓のある6人の志士に坂本龍馬と沢村惣之丞の2人を加えた8人の志士の銅像を町内に建立し、「維新の門」と命名。その功績を伝えている。韮ケ峠など坂本龍馬や吉村虎太郎が脱藩するために通った道も当時の趣を残したまま多数残存の隈研吾氏が町内の芝居小屋「ゆすはら座」の保存運動で当地を訪れたことがきっかけとなり、町内には総合庁舎や図書館、ホテルなど同氏デザインの木造建築が計6棟ある。
梼原町産の杉の木を使った建築家・隈研吾氏建築の梼原町総合庁舎
梼原町産の杉の木を使った建築家・隈研吾氏建築の梼原町総合庁舎
梼原町は森林が町の面積の9割を占める
梼原町は森林が町の面積の9割を占める
地域の特徴や住民性などによって
「農村RMO」の形は多種多様です。
各地域の事例を是非ご覧ください。
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