水稲とホップ栽培で農用地保全-京都府与謝野町

農村RMO事例
水稲とホップ栽培で農用地保全
京都府与謝野町
鬼の酒呑童子がすんでいた伝説のある大江山から
水田が広がる与謝野町を一望する

農村RMO「与謝地域山村活性化協議会」の設立

夕日を浴び稲穂が輝く与謝野町の水田
夕日を浴び稲穂が輝く与謝野町の水田
「与謝地域山村活性化協議会」が活動する与謝野町字与謝・滝・金屋地区(旧与謝村)は、昭和50年代には2,000人を超える人口があったが、この40年間で3割減少し、現在は1,400人を切った。2020(令和2)年には地域内の唯一の小学校(町立与謝小学校)が閉校。過疎化、高齢化が進行する厳しい状況にある。
同校の再利用を含めて地域全体の維持と活性化を進めるため、10(平成22)年度に滝区と金屋区の中山間直接支払集落協定合併時に設立された滝・金屋農業振興会を事務局とし、農村RMO「与謝地域山村活性化協議会」が結成された。
構成員は、滝・金屋農業振興会(農家約90戸)、与謝農業振興会(農家約60戸)、有限会社あっぷるふぁーむ(農地所有適格化法人)、有限会社誠武農園(同)、砂後建設株式会社、社会福祉法人よさのうみ福祉会、与謝野町農業再生協議会、株式会社与謝ファーム、与謝野町観光協会、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会、京都北都ブランドマーケティング株式会社、滝区、金屋区、与謝区、与謝野町農林課である。
愛知県豊田市旭地区

農用地保全

3つの農村集落機能 生産 資源 生活
地産米のブランド化とホップ栽培で活路を
滝・金屋地区の中山間直接支払制度協定に参加する農業者の平均年齢は2020〈令和2〉年度で67歳と徐々に上昇しているが、農家1戸当たりの経営面積と農地所有適格化法人および認定農業者への集積は進んでおり、同年度の集積率は、農地所有適格化法人は50.8%、認定農業者は59.2%となっている。
与謝野町は、誘致した豆腐工場から出たおからを主原料とする有機質原料100%の肥料を有機質肥料「京の豆っこ」として、水稲や施設園芸、露地野菜用などに販売している。また、同肥料を使用して栽培したコメを「京の豆っこ米」の名称で販売、町内の小中学校の給食で提供している。与謝野町をはじめとする丹後地域で生産する丹後産コシヒカリは、日本穀物検定協会から特Aの評価を西日本で最多の12回受けており、当地はコメがおいしいと評判の地域である。

水田が耕地面積のほとんどを占める当地区だが、コメ農家の高齢化とコメの消費量の減少が進む状況から、新しい高付加価値作物が求められている。
与謝・滝・金屋地区は、2015(平成27)年からビールの原料であるホップの栽培に着手した。日本ビアジャーナリスト協会代表の藤原ヒロユキ氏(妻が与謝野町出身)が同町でホップの試験栽培を実施し、栽培が可能であることを証明したことが契機となり、徐々に生産量が増加している。
日本でのホップ栽培は、これまで大手ビールメーカーの契約栽培が中心で、産地も気候が冷涼な東北地方などが中心だった。現在は、「マイクロブルワリー(小さな規模でビールを生産するビール工場)にホップを提供する全国でも3本の指に入る生産地」(与謝野町農林課ホームページ)となるまで栽培規模が拡大。国内初のフリーランスのホップ産地で栽培の南限地と言われている。町内の与謝野駅(京都丹後鉄道宮豊線)近くに民間投資によるクラフトビール醸造所が2023(令和5)年夏にオープンする動きもあるという。
自らも15アールの畑でホップを栽培している与謝地域山村活性化協議会の和田徳雄会長は、「ホップ栽培は機械化ができず、当地ではすべて手摘みしており、摘んだらすぐに真空冷凍してフレッシュさを保ちます。天敵は、害虫のフキノメイガとベト病。高所作業も多く人手のいる仕事ですが、栽培農家へのアンケートでは、“やりがいがある仕事”との回答があり、地域を活性化させています。これからも推進していきたい」と苦労と抱負を語った。
町内の道の駅「道の駅シルクのまちかや」内にある「よさの野菜の駅」で販売されている「京の豆っこ米」
町内の道の駅「道の駅シルクのまちかや」内にある
「よさの野菜の駅」で販売されている「京の豆っこ米」
休耕田の水田を転作したホップ畑。地下(排水)溝の工事などで水はけをよくした
休耕田の水田を転作したホップ畑。
地下(排水)溝の工事などで水はけをよくした

地域資源活用

3つの農村集落機能 生産 資源 生活
道の駅で産直野菜を販売 加工品の開発
協議会の構成員でもある与謝野町観光協会は、道の駅「シルクのまちかや」内の「よさの野菜の駅」と連携し、運営している。町内の農家が朝に収穫した新鮮野菜を直接納品、販売する市場として人気が高く、近年売り上げも大きく伸びている。
与謝野町観光協会理事で「よさの野菜の駅」駅長の小池早苗さんは、「町内だけでなく近隣の自治体や県外からのリピーターも増えてありがたいです。販売物は町内産に限っていますが、同じカボチャでも種類がたくさんあって壮観です。リンゴ、ブドウ(巨峰)、スイカ、ウリ、トマト、キュウリ、ナス、イモ、つるし柿(大実柿)などがよく売れます。水田を転作したネットメロンも人気です」とうれしそうに話す。
協議会事務局の「滝・金屋農業振興会」の井上公章さんは、「この辺りの農業の特徴は、多品種です。露地とハウスの両方で栽培しています。寒暖の差も大きいので味がよいと評判です。『よさの野菜の駅』横の大江山運動公園をスタートする大江山登山マラソンは30回を超え、コロナ禍の影響で3年ぶりの開催となった今年度は、優勝賞品がコメ(丹後産コシヒカリ)30キロです」と地域に活気が戻ってきたことを喜ぶ。
また、道の駅「シルクのまちかや」は、2023(令和5)年4月から「よさの野菜の駅」駅長の小池早苗さんが代表取締役を務める京都北都ブランドマーケティング株式会社(与謝地域山村活性化協議会の構成員)が指定管理者として運営する予定である。
大江山登山マラソン開催前にコースに準備されたのぼり 大江山連山を望む
大江山登山マラソン開催前にコースに準備されたのぼり 大江山連山を望む
協議会の構成員で農地の保全と担い手の育成を担当する有限会社誠武農園は、1990(平成2)年に設立され、農地所有適格化法人として農産物や加工品の生産、農地管理、後継者育成、イベント開催などで地域の中心的な役割を担っている。
主な生産物は、コメと野菜で、前述の丹後産コシヒカリの「京の豆っこ米」や小松菜、キュウリ、水菜、万願寺トウガラシ、大根、赤カブなどの新鮮野菜を販売している。6次産業化も積極的に取り組んでおり、2014(平成26)年に建設、操業を開始した乾燥野菜工場で新鮮な野菜を蒸して乾燥させた野菜も販売。開発、加工した商品も多く、小松菜のドレッシングやジュース、ニンニクのタレや味噌、オイル、赤かぶ漬けなどがある。
同社の西川忠宏代表取締役社長は、「水稲は26町歩(約26ヘクタール)、野菜畑は4町歩(約4ヘクタール)作っています。従業員は14人。多品種の野菜を栽培しています。補助金を活用して6次産業化にも取り組んでおり、乾燥野菜の製造は7種類になりました。『よさの野菜の駅』など道の駅やウェヴでも販売しており、これからも与謝野の野菜作りを盛り上げていきたいです」と意気込む。
「よさの野菜の駅」駅長の小池早苗さんと販売されている野菜
「よさの野菜の駅」駅長の小池早苗さんと販売されている野菜
与謝野産のホップを使って醸造されたビールも販売されている
与謝野産のホップを使って醸造されたビールも販売されている
有限会社誠武農園で開発された加工商品
有限会社誠武農園で開発された加工商品

生活支援

3つの農村集落機能 資源 生産 生活
農福連携 障害者が活躍する野菜加工所
社会福祉法人よさのうみ福祉会は、協議会の農福連携を担当。農産加工所で雇用した障害者が、地元の農家から持ち込まれた未利用野菜を高機能冷凍機で長期保存可能なカット野菜にし、出荷している。野菜が旬でない時期に販売できるので売り上げも増加し、健常者、障害者ともに雇用が拡大。当初は規格外の野菜を加工していたが、今では前述の誠武農園など近隣の農家から通常の野菜も加工品用に持ち込まれることも増えている。現在は野菜が7割で3割は果物の割合。果物は、ジュースや焼き肉用のタレに加工される。  
同福祉会の農産加工所統括責任者の矢嶋広和主任は「この加工所は12年ほど前に町と福祉会・滝・金屋農業振興会が資金や設備を出し合って作りました。1日の処理は最大200キロが限度なので生産者の方と分量を調整しながら作業しています。着色料は一切使いません。農家からは委託の加工賃をもらい、現在120件の取引先があります。さまざまな障害の方がおられるので体調管理に最も気を使います。機器は急速冷凍を使っています。作業が負担にならないように1日の労働時間は6時間(休憩1時間を含む)です。加工所以外に農業班もあり、季節により露地やハウスでネギの栽培の作業などをしてもらっています」と加工所の運営や障害を持つ従業員への配慮について説明してくれた。
障害者の方たちが作業する加工所(写真は第二加工所)
障害者の方たちが作業する加工所
(写真は第二加工所)

地域の紹介~
京都府与謝郡与謝野町

京都府の与謝野町は、丹後半島の付け根にあり、京都市内から120キロの距離にある。2006(平成18)年に近隣の加悦町、岩滝町、野田川町(以上当時)が合併し、現在の与謝野町が誕生した。西側は兵庫県豊岡市と隣接する。人口は2万166人(23〈令和5〉年1月31日)。町の総面積の85%を農地と森林が占め、大江山連山を背景に稲穂が広がる美しい町だ。
主な産業は、農業と織物業(丹後ちりめん)。農業は稲作が中心で、水田が経営耕地面積の約94%を占める(京都府1位)。一方で水稲は生産調整の廃止や人口減などによるコメの消費量の減少が進んでおり、新しい高付加価値作物が求められている。
丹後ちりめんは京都府北部の丹後地方特有の技術で染められた絹織物で、与謝野町は一大産地である。加悦地区の「丹後ちりめん街道」は、江戸から昭和初期にかけて丹後ちりめんが隆盛を極めた時代の旧商家の住宅などが多数残存し、当時の風情を色濃く残している。05(平成17)年には、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定された。
水田が広がる与謝野町の初秋の風景
水田が広がる与謝野町の初秋の風景
地域の特徴や住民性などによって
「農村RMO」の形は多種多様です。
各地域の事例を是非ご覧ください。
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