農村RMO事例
株式会社設立で
地域ビジョンを実現
地域ビジョンを実現
島根県安来市
比田地区の棚田風景
安来市比田地区の概要
比田地区は、安来市の中心部から南西に約35キロ、車で約1時間の距離にある。標高約300メートルに開けた盆地にあり、主な産業は農業で稲作が中心。地区内には棚田が随所に見られ、静かで里山の風景が道路に沿って続く美しいところだ。寒暖の差が大きく、水と空気が新鮮な当地の米は「比田米」と呼ばれ、味が良いと人気が高い。地区内には、三つの行政区と二つの交流センター、小学校と保育所が一つずつある。人口は959人、世帯数は396戸(2022〈令和4〉年7月末)。
島根県出雲地方は古来より日本の伝統的な製鉄方法が伝えられ、この地区には全国の鍛冶屋が守護神として信仰する「金屋子神社(かなやごじんじゃ)」の総本社がある。


安来市比田地区の稲田風景
えーひだカンパニー株式会社の誕生
2004(平成16)年当時、比田地区には中学校1校、小学校2校、保育所2施設があったが、統廃合が進んだ現在は小学校1校、こども園が1施設となっている。人口減少に歯止めがかからず、「しまねの郷づくり応援サイト」(島根県地域振興部運営)によれば、比田地区の人口は40(令和22)年には現在の半数以下の477人に減少すると推計され、高齢化率は70%になるという。「(地元の)東比田小学校がなくなったときに強い危機感を感じました。人口推計もショックでした」-。こうした地域の存続が危ぶまれる状況に直面し、「えーひだカンパニー株式会社」現取締役の田邊裕子さんら有志が集まり、プロジェクトチームを結成。15(平成27)年に「いきいき比田の里活性化プロジェクト」をスタートさせた。
プロジェクトチームは、最初に比田地区全体の方向性を示す地域ビジョンを作成するため、全世帯(中学生以上)を対象に個人用と世帯主用の二つのアンケート調査を実施。「10年後あなたは比田に住んでいると思いますか?」「家の農業を10年後どうしたいですか?」などの質問に約90%の回答があった。ビジョン作成のヒントを得るため、県外の地域づくりや多角的な農業経営の先進地(兵庫県の農業生産法人など)への視察を重ねるとともに、地域全体のモチベーションを高めようと、世代別や全世代を対象にワークショップも実施した。集まった1469のアイデアを優先度や実現可能性などの観点から88に絞り込み、「比田地域ビジョン」が翌年完成した。
このビジョンを実現させるため、任意組織を経て「えーひだカンパニー株式会社」が17(平成29)年に誕生。構成員79人(平均年齢48.1歳)のスタートだった。「比田地区は面積が広い上、東西に長く、二つに分かれていてまとまりにくかったのですが、株式会社に地区全体から出資してもらったことで地域に一体感が生まれました。事業の制約がなくやりやすいし、責任が明確になる。社会的な信用度も格段に上がりましたね」と田邊さんは株式会社化のメリットを語る。
現在、総務部、生活環境部、比田米プロジェクト部、ひだキッチン部、地域魅力部の5部署がそれぞれ担当するビジョンの実現に向けて活動している。どの部に所属するかは「『自分ができることを手伝う』を基準にして決まる」(田邊取締役)という。
経営理念は、「自治機能と生産機能の発揮による“地域ビジョンの実現と『えーひだ』”の創造」。
プロジェクト始動時に京都から移住し、安来市の地域おこし協力隊のメンバーとして活躍してきた野尻ちさと取締役は、「自立した地域づくりを計画的に行っていく」というスタンスで会社運営に臨んでいる。会社名の「えーひだ」には、“今日も、明日も、えー日だ(比田)と言える比田に!”とのメッセージが込められている。

「えーひだカンパニー」取締役の田邊裕子さん(左)と同取締役の野尻ちさとさん
地域資源活用
比田産の酒米で日本酒造り
地域ビジョンの1つ「比田産の酒米で日本酒造り」は、比田米プロジェクト部が酒米作り、総務部が酒蔵との交渉や各種手続き、ひだキッチン部が商品開発など、各部が力を結集し推進。安来市内の蔵元で酒米の「縁(えにし)の舞」を仕込んだ地酒を製造し、「たたらの舞」と「たたらの風」を販売している。また、比田産のそば粉を使用した「たたらそば」、小麦粉で作った「たたらラーメン」、比田産の米粉や野菜を使用した菓子パン、地元の野菜中心に作ったドレッシングなども開発。地域魅力部が運営する市場の「えーひだ」や比田郵便局、ネットショップなどで販売している。
新しい取り組みとして、耕作放棄地をドジョウの養殖池へ転用している。「どじょうすくい踊り」で有名な安来節は、安来市生まれの伝統民謡。えーひだカンパニーの川上義則社長は、「ドジョウは安来のブランド。この資源を活用しないともったいない」と養殖開始への思いを語った。
地域ビジョンの1つ「比田産の酒米で日本酒造り」は、比田米プロジェクト部が酒米作り、総務部が酒蔵との交渉や各種手続き、ひだキッチン部が商品開発など、各部が力を結集し推進。安来市内の蔵元で酒米の「縁(えにし)の舞」を仕込んだ地酒を製造し、「たたらの舞」と「たたらの風」を販売している。また、比田産のそば粉を使用した「たたらそば」、小麦粉で作った「たたらラーメン」、比田産の米粉や野菜を使用した菓子パン、地元の野菜中心に作ったドレッシングなども開発。地域魅力部が運営する市場の「えーひだ」や比田郵便局、ネットショップなどで販売している。
新しい取り組みとして、耕作放棄地をドジョウの養殖池へ転用している。「どじょうすくい踊り」で有名な安来節は、安来市生まれの伝統民謡。えーひだカンパニーの川上義則社長は、「ドジョウは安来のブランド。この資源を活用しないともったいない」と養殖開始への思いを語った。

えーひだ市場やネットショップなどで販売している地元産の商品の数々

耕作放棄地をドジョウの養殖池に転用
農用地保全
中山間直接支払交付金の一本化地域ビジョンの一つに中山間直接支払交付金の一本化がある。
総務部では現在、比田地区内で同交付金を活用する19組合のうち13組合を4つの統合協定にまとめ、その協定の事務や加算措置に関する取り組みを担当し、申請手続きや書類作成、会計処理を行っている。
農用地保全関連の事業としては、
- JAからの水稲の育苗作業の受託
- 高齢化に対応した田畑管理を請け負う水稲栽培事業
- 生産者の負担軽減を図る草刈り事業
- 耕作放棄地や使用しにくい畑をそば・小麦などへ転用

えーひだカンパニーが耕作を請け負っている山間の稲田

ラジコンの草刈り機を使った草刈り事業

そばの栽培に転用した畑 これから種まき〈信濃一号〉が始まる
生活支援
デマンド交通事業地域ビジョンの一つに「通学・通院や買い物サポートのデマンドバス」事業は生活環境部が担っている。2018(平成30)年に設立された「えーひだ交通運営協議会」との共同事業であるデマンド交通は、現在比田地区全域で運営され、金融機関の手続きや買い物など住民の生活支援に役立っている。21(令和3)年には450回以上使用された。
西比田地区でデマンド交通に自社の配車タクシーを提供している梅林タクシーの梅林益美代表取締役は、「地域に居場所があるのはとてもありがたいことです。えーひだカンパニーの皆さんにはとても感謝しています」とうれしそうに地域に貢献できる喜びを語った。

梅林タクシー代表取締役の梅林益美さんとデマンド交通の使用車両
川上義則代表取締役に聞く
川上義則社長は、比田地区で唯一のスーパーマーケットと食堂を経営している。食堂では、比田米を使った定食が食べられる。川上社長に比田地区の現状とえーひだカンパニーの今後について聞いた。
スーパーと食堂を経営していると地域の経済事情がとてもよく分かる。人口減少と高齢化の問題は重い。コロナの影響も非常に厳しかった。みんなで頑張っているが、今の世代が頑張ってどう次の世代につなげていくのか、これが大きな課題。地区内の温泉施設を運営するため、子会社の「えーひだドリーム」をこのたび設立した。温泉施設を体験型宿泊施設として、比田地区の特性を生かしながら春夏秋冬でさまざまな体験ができる施設を目指す。関係人口を作り、比田の魅力を体験、発信し、定住につなげていきたい。また、比田のすべての価値を高めて活性化させていきたい。


スーパーと食堂を経営していると地域の経済事情がとてもよく分かる。人口減少と高齢化の問題は重い。コロナの影響も非常に厳しかった。みんなで頑張っているが、今の世代が頑張ってどう次の世代につなげていくのか、これが大きな課題。地区内の温泉施設を運営するため、子会社の「えーひだドリーム」をこのたび設立した。温泉施設を体験型宿泊施設として、比田地区の特性を生かしながら春夏秋冬でさまざまな体験ができる施設を目指す。関係人口を作り、比田の魅力を体験、発信し、定住につなげていきたい。また、比田のすべての価値を高めて活性化させていきたい。

川上社長 経営するスーパーマーケットの前で

川上社長が経営する食堂の比田米を使った定食
地域紹介~島根県安来市
比田地区のある安来市は、島根県の東端に位置し、鳥取県との県境である。人口は3万6782人(2022〈令和4〉年4月末)。市の魚は、ドジョウ。古代出雲の中心だったとも言われており、古代より「たたら製鉄」と呼ばれる製鉄方法が盛んだった。市内の足立美術館は近代日本画の横山大観コレクションと日本庭園で知られ、特に日本庭園は海外での評価が高い。国内外から多数の来訪者があり、大きな観光資源となっている。大正から昭和時代初期に全国で大ブームを起こした民謡の「安来節」は、江戸時代に当地で誕生した。


安来市役所