農村RMO事例
棚田を核にむらづくり
~眺めるだけじゃない、カカワレルタナダ~
~眺めるだけじゃない、カカワレルタナダ~
長野県上田市豊殿地区
徳川の大軍を2度撃退した上田城。東虎口櫓門

旧北国街道の風情が残る柳町
長野県上田市豊殿地区
長野県上田市の豊殿地区は、上田市の東北に位置する里山の風景が美しい地域だ。農業が盛んで、コメ、麦、リンゴ、ブドウ(巨峰)、野菜が栽培されている。上田市の東の玄関口である上信越自動車道の上田菅平インターチェンジも近い。地区内の稲倉の棚田からは、上田市の街並みや美ケ原高原、北アルプス連峰の壮大な風景を眺めることができる。稲倉の棚田には6~7世紀ごろの横穴式古墳があり、古来よりこの地に人が居住していた。“眺めるだけじゃない、カカワレルタナダ”をキャッチフレーズとし、稲倉の棚田を活用してむらづくりを推進する「稲倉の棚田保全委員会」を取材した。

稲倉の棚田からの眺め。
上田市の街並みや美ケ原高原、北アルプス連峰を一望できる
上田市の街並みや美ケ原高原、北アルプス連峰を一望できる

「稲倉の棚田保全委員会」
豊殿地区の稲倉の棚田は江戸時代に開墾されたと言われ、約30ヘクタールにわたって広がる。標高差は200メートル以上にも及び、石と土で造られた土手に守られた780枚の棚田の風景は壮観で、1999(平成11)年に「日本の棚田百選」に認定された。認定を契機に地元の有志が保全活動を開始し、この農業資産を地域の核として多面的に活用しようと、「稲倉の棚田保全委員会」が設立された。地域外からの支援を目的に、棚田米や酒米のオーナー制度の実施、田植え、稲刈りなど学校の課外学習体験の受け入れなど、多様な棚田保全活動を展開している。
こうした取り組みが評価され、2022(令和4年)度の農林水産祭「むらづくり」部門で天皇杯を受賞した。久保田委員長は、「受賞する立場となりましたが、先輩たちが積み上げてきた長い努力のおかげです」と感謝の気持ちを表した。
「稲倉の棚田保全委員会」(以下「委員会」)の取り組みは、農村RMOの目指す目的や方向性と重なるところが多く、農村RMOの視点から同委員会の活動を以下に紹介する。

稲倉の棚田

「稲倉の棚田保全員会」を支援する上田市役所の庁舎

久保田委員長と「稲倉の棚田保全委員会」の事務局がある
「稲倉の里農村交流館」
「稲倉の里農村交流館」
農用地保全
棚田米オーナー制度
棚田米オーナー制度は、棚田の保全活動を地域外からも支援してもらおうと2006(平成18)年に始まり、年会費制で応募状況に合わせて内容を調整している。「グループで自分たちの田んぼを持ちたい」「小さい子どもに体験させたい」など多様なニーズに対応。現在、希望に合わせて3つのプランを用意しており、オーナー数の増加につながっている。
【棚田エリアオーナー】
5アールの田を占有。稲刈りと田植えの作業が体験でき、占有した田んぼで収穫された60キロのコメ(白米か玄米を選択可)が提供される。
【棚田サポーター】
委員会が割り当てた田んぼで、他のサポーターと一緒に田植え、稲刈りの作業が体験できる。棚田で収穫された30キロのコメ(白米か玄米を選択可)が提供される。
【棚田ファン】
自由参加で田植え、稲刈りの作業が体験でき、棚田で収穫された900グラムの白米が提供される。
棚田米のオーナー数は同制度の開始以来順調に増加している。2022(令和4)年度は133組の申し込みがあり、保全活動の大きな資金源となっている。

棚田米オーナー制度は、棚田の保全活動を地域外からも支援してもらおうと2006(平成18)年に始まり、年会費制で応募状況に合わせて内容を調整している。「グループで自分たちの田んぼを持ちたい」「小さい子どもに体験させたい」など多様なニーズに対応。現在、希望に合わせて3つのプランを用意しており、オーナー数の増加につながっている。
【棚田エリアオーナー】
5アールの田を占有。稲刈りと田植えの作業が体験でき、占有した田んぼで収穫された60キロのコメ(白米か玄米を選択可)が提供される。
【棚田サポーター】
委員会が割り当てた田んぼで、他のサポーターと一緒に田植え、稲刈りの作業が体験できる。棚田で収穫された30キロのコメ(白米か玄米を選択可)が提供される。
【棚田ファン】
自由参加で田植え、稲刈りの作業が体験でき、棚田で収穫された900グラムの白米が提供される。
棚田米のオーナー数は同制度の開始以来順調に増加している。2022(令和4)年度は133組の申し込みがあり、保全活動の大きな資金源となっている。

棚田米オーナーは順調に増加している
地域資源活用
酒米オーナー制度 棚田キャンプ 課外授業酒米オーナーは、稲倉の棚田で農作業し、収穫した酒米を地元の老舗酒造会社が醸造した原酒を一般の販売前に提供を受けられる制度。
2022(令和4)年度には52人の応募があった。酒米の品種は、長野県産の「ひとごごち」。提供される酒は、「信州亀齢〈上田・稲倉の棚田〉純米吟醸 無濾過生原酒」でオーナー専用の4合瓶が12本提供される。オプションの費用を追加すれば、抽選で20組が「杜氏を囲む会」に参加し、専用の瓶に自分で原酒を詰める作業ができる。
同制度に協力している上田市内の岡崎酒造は、委員会と棚田パートナーシップ協定を結んでいる。350年の歴史があり、21(令和3)年の全国新酒鑑評会(明治時代から続く全国規模の新酒鑑評会)で金賞を受賞するなど、全国的に注目度が高い。上田城近くの旧北国街道沿いの店の構えは風格と歴史を感じさせる。
「棚田CAMP」は、農閑期の4月と11月に開催しているイベントで、棚田の中にテントを張り、キャンプを楽しめる。農業の観点ではなく、棚田を一つの地域資源として有効活用する新しい体験事業として注目を集め、全国の棚田にも広まっている。来訪者の年齢は30~40代が多く、関係人口も増加し、棚田の各オーナーへの申し込みにもつながっている。
年間を通してキャンプしたいとの希望も増え、棚田を眺めながらキャンプができる常設のスペース(隣接する稲倉の里農村交流館内の水洗トイレや水道が24時間利用可能。エリア内の畑の野菜も収穫できる)も造設した。宿泊型農業体験として新しいサービスが展開されている。
委員会では、学校や各種団体の課外授業の受け入れも積極的に行っている。棚田の田植えと稲刈りが主な農作業体験で、21(令和3)年には地元小学校の生徒(3年生)らが理科の授業に合わせた課外授業の場として棚田を訪れた。
棚田の農作業も一段落した晩秋の時期には、たき火をした経験がない子どもたちを招き、焼き芋体験を行っている。たき火で芋が焼きあがるまでの時間は、凧あげなどを楽しむという。

旧北国街道の柳町で350年の歴史がある岡崎酒造の本店

稲倉の棚田で収穫された酒米で醸造された日本酒。毎年発売早々に完売する
生活支援
ししおどし祭り オンデマンド配車サービスししおどし祭りは、香川県小豆島の中山千枚田で行われる害虫駆除祈願の「虫送り」を参考に始めたお盆の祭り。参加者は委員会が用意したたいまつを持ってライトアップされた棚田を練り歩く。五穀豊穣(ごこくほうじょう)と獣害低減を願う祭りとして2020(令和2)年から開催され、小さい子どもも安心して練り歩けるように竹で作ったちょうちんも提供されている。幻想的な風景で地域の夏の風物詩として定着しつつあり、地域外からの参加者も多く、関係人口の拡大に大きく貢献している。地域の獣害については、これまでイノシシが多かったが、「シカが最近増えています。クマも見るようになった」(久保田委員長)という。
「稲倉の棚田保全員会」が連携する豊殿地区の住民自治組織「豊殿まちづくり協議会」は、地域の活性化と住民福祉の向上を目的として活動している。交通手段を持てない地区内の住民向けにオンデマンド方式の“豊殿お助け福祉車ひだまり号”を配備し、送迎の支援を行っている。対象者は地区内の交通弱者全員だが、高齢者が優先される。運行は週3日で、1戸当たり年間1000円を負担すれば乗車料金は無料。利用したい日の前日までに電話で予約する。

オンデマンド運行車。
週3日(月、水、金曜日)運行されている。
週3日(月、水、金曜日)運行されている。
地域の紹介~
長野県上田市
県の東部・東信地方に位置する上田市は、2006(平成18)年に旧上田市、丸子町、真田町、武石村が合併して発足した。県庁所在地の長野市から40キロ、東京から190キロの距離にあり、人口は約15万人(23〈令和5〉年)で長野県内では長野市、松本市に次ぐ3番目の規模の都市である。市域を二分するように千曲川が流れ、右岸の旧市街は戦国時代に真田氏が築いた上田城を中心とする城下町で、上田城近くの柳町には旧北国街道の古い町並みが今も残る。千曲川左岸の塩田地域は、鎌倉時代の執権北条氏一族の塩田北条氏の所領で、安楽寺、前山寺などの古刹(こさつ)があり、20(令和2)年には日本遺産に認定されている。稲倉の棚田の近隣には真田氏発祥の地とされる真田郷があり、真田氏本城跡が保存されている。
上田城は、1583(天正11)年に真田昌幸が築城した平城で、徳川の大軍を2度退けた歴史があり、近世の城郭で2度も実戦が行われた例は全国でもないという。現在は公園として整備され、訪れた日も多くの市民が散策していた。

JR上田駅構内にある真田氏を記念する展示物

上田城