水田再整備と地産米のブランド化で農地を守る-石川県七尾市中島町釶打地区

農村RMO事例
水田再整備と地産米のブランド化で農地を守る
石川県七尾市中島町釶打地区
釶打地区のシンボル 藤津比古神社
釶打地区の春と秋の風景
釶打地区の春と秋の風景
釶打地区の春と秋の風景(以上2枚、釶打ふるさとづくり協議会提供)

石川県七尾市中島町釶打地区

「釶打(なたうち)」は、鎌倉時代から使われてきた村名で、木材・木炭の生産地として知られていた。現在は、地区の大半が兼業農家で、棚田での米作りと中島菜や小菊カボチャなど能登野菜の栽培が行われている。当地には自然と歴史に恵まれた多くの地域資源があり、国の重要文化財に指定された藤津比古神社(鎌倉時代建立)や座主家(能登半島最古の茅葺の農家)をはじめ、中世の山城跡や砦跡、五つの浄土真宗の寺が一地域に集中しているという日本でも珍しい五カ寺などの史跡を有する。
一方で人口減少により集落機能の衰退が進行し、平成の大合併によって、歴史ある「釶打」の名が保育園や小学校、農協支所などの廃止で消滅するという寂しい現状にある。
七尾市中島町釶打地区で、農村RMOとして活動する「釶打ちふるさとづくり協議会」を取材した。
江戸時代の築造と推定される座主家(ざすけ)
江戸時代の築造と推定される座主家(ざすけ)
石川県七尾市中島町釶打地区

農村RMO「釶打ふるさとづくり協議会」

釶打地区では過疎と高齢化が進んでおり、1985(昭和60)年は1646人が住んでいたが、2021(令和3)年には747人まで減少、高齢化率は49%となっている。空き家や耕作放棄地の増加が深刻で、集落機能の維持が困難な状況である。
人口減少による集落存続の危機感から、1992(平成4)年に「釶打ふるさとづくり協議会」が結成され、「個性」「活力」「定住」を3本柱に「嫁に来たくなる里づくり」をテーマに地域の活性化に取り組んでいる。各集落の結び付きの強化や地域資源の掘り起こしなどの地域づくりが評価され、2014(平成26)年度には農林水産祭「むらづくり部門」で農林水産大臣賞を受賞した。
22(令和4)年には農村RMOの制度を導入し、さらなる展開を図っている。構成員は、釶打町会長会、「美土里ネットなたうち」(事務局兼務)、釶打壮年団協議会、釶打女性会、釶打老人会、NPO「なたうち福祉会」、農業組合法人「なたうち」、藤瀬霊水公園管理組合、「朱鷺の棲む釶打クラブ」。
伴走支援については、石川県(ワークショップ時や活動全般にオブザーバーとして事業・制度の説明や取りまとめの助言)、七尾市(中山間地域直接支払や多面的機能支払事業との整合性や運営の助言)などから協力を受ける。
地域ビジョンは、08(平成20)年度に作成した「釶打創成ビジョン」に基づき、水田130ヘクタールの土地改良事業を実施した。「一地区一農場化」を実現し、雇用と所得を確保。住民で創設したNPOなたうち福祉会の高齢者福祉活動を充実させ、「住み慣れた釶打に住み続けられる」環境づくり、地域農業と祭りをはじめ、伝統的行事を都市住民や学生との体験・交流を通した次世代への継承など、「永く住み続ける、永く住みたい地区」を目指している。
釶打ふるさとづくり協議会の村田正明事務局長
釶打ふるさとづくり協議会の村田正明事務局長
農事組合法人「なたうち」の案内板と釶打米の看板
農事組合法人「なたうち」の案内板と釶打米の看板

農用地保全

3つの農村集落機能 生産 資源 生活
水田再整備 釶打米のブランド化
釶打地区では、水稲栽培の効率化を目的に2012(平成24)年度から水田の再整備を実施された。土地の権利者の3割が不在という状況の中で、この10年間に約123ヘクタールを整備され、田畑の枚数は2729枚から359枚(8分の1)へ。1枚当たりの面積は450平方メートルから3440平方メートル(8倍)へと大区画化を実現した。整備後の営農は、農事組合法人「なたうち」が担当している。
小区画や水はけの悪い田畑を整備し大区画化が実現(釶打ふるさとづくり協議会提供)
小区画や水はけの悪い田畑を整備し大区画化が実現
(釶打ふるさとづくり協議会提供)
日陰で水はけが悪い農道をコンクリート舗装に
日陰で水はけが悪い農道をコンクリート舗装に
大規模営農では用排水路や農道の維持管理が大きな負担となる。農事組合法人「なたうち」の営農を支援するため、「美土里ネットなたうち」が、中山間直接支払交付金を活用し、住民参加による用排水路や農道などの維持管理を行っている。「美土里ネットなたうち」は、地区内の9集落の広域組織として中山間直接支払制度の事務手続きも担当している。
釶打のコメは、虫ケ峰や別所岳など近隣の山々の渓流を田に引き入れて使用し、ハザ干し(天日干し)で米作りをしてきた。当地は昔から良質の米どころとして有名で、「釶打米」としてブランド化を図っている。品種はコシヒカリ。
住民参加の釶打米の稲刈り作業(釶打ふるさとづくり協議会提供)
住民参加の釶打米の稲刈り作業
(釶打ふるさとづくり協議会提供)
農事組合法人「なたうち」女性加工グループの関さんと釶打米
農事組合法人「なたうち」女性加工グループの関さんと釶打米

地域資源活用

3つの農村集落機能 生産 資源 生活
地産野菜と加工商品の販売 トキを再び釶打に
特産品については、古くから釶打で栽培されてきた中島菜、小菊かぼちゃ、金糸瓜などの栽培を拡大している。中島菜は、血圧上昇を抑える効果が近年発見されたという。中島菜や金糸瓜の規格外品を活用した漬物や地産の大豆を用いた手作り味噌などの特産品開発にも積極的に取り組み、所得向上と雇用創出を実現している。
観光資源としては、「平成の100名水」に選定された「藤瀬の水」、国指定重要文化財の藤津比古神社や座主家、地区内真宗五カ寺などを釶打地区の財産として保護、管理に努めている。これらを都市住民や学生との体験・交流に活用し、管理を次世代に継承していく。
構成員の「朱鷺の棲む釶打クラブ」は、 地区内外の住民で構成され、トキが再び釶打で生息できる環境づくりを目的とした組織。かつて同地区にはトキが飛来していたこともあり、金沢大学などの協力を得ながら環境保全型農業の推進やビオトープ(生物が生存しやすい環境に改変すること)づくりに取り組んでいる。
能登野菜の小菊かぼちゃの出荷作業(釶打ふるさとづくり協議会提供)
能登野菜の小菊かぼちゃの出荷作業
(釶打ふるさとづくり協議会提供)
能登野菜の中島菜の漬物作業(釶打ふるさとづくり協議会提供)
能登野菜の中島菜の漬物作業
(釶打ふるさとづくり協議会提供)
地産の野菜を活用した多彩な加工食品
地産の野菜を活用した多彩な加工食品
能登野菜の中島菜の漬物作業(釶打ふるさとづくり協議会提供)
棚田の斜面に植えた芝桜。新しい観光資源に
(釶打ふるさとづくり協議会提供)
能登野菜の能登白ネギ
能登野菜の能登白ネギ

生活支援

3つの農村集落機能 資源 生産 生活
介護施設や買い物代行サービスを運営 無人直売所
高齢者の安全、安心の確保では、2010(平成22年)度に住民参加で「NPOなたうち福祉会」が創設され、介護施設「なたうちニコニコホーム」の運営や車による買い物代行「なたうちニコニコ便」、付き添い支援、配食サービスの活動などを通して誰もが安心して暮らせる持続可能な地域の実現を目指している。なたうちニコニコホームは旧釶打保育園の施設を活用し、デイサービスやショートステイ、ホームヘルパーなど多機能で総合的な支援を行っている。なたうちニコニコ便は、65歳以上なら誰でも買い物代行サービスが利用できる。
地区内に生鮮品を扱う商店がなくなったため、県道沿いに開設した無人直売所「なたうちちょっこし村」では、地産の新鮮野菜や花、漬物、味噌などの加工品、手作りの民芸品などを販売。電子決済サービスも一部使用でき、住民らに重宝されている。
買い物代行の「なたうちニコニコ便」65歳以上なら誰でも利用可能
買い物代行の「なたうちニコニコ便」65歳以上なら誰でも利用可能
県道沿いで駐車スペースもあり利用が便利(釶打ふるさとづくり協議会提供)
県道沿いで駐車スペースもあり利用が便利
(釶打ふるさとづくり協議会提供)
住民が持ち寄ったさまざまな商品を販売している(釶打ふるさとづくり協議会提供)
住民が持ち寄ったさまざまな商品を販売している
(釶打ふるさとづくり協議会提供)

地域の紹介~
石川県七尾市

石川県の能登半島は、低山と丘陵地が多く、平地が少ない。三方の海岸線は「外浦」と呼ばれる岩礁海岸、「内浦」と呼ばれるリアス式海岸、遠浅の砂浜海岸と、それぞれ異なる形を持っている。能登半島の4市5町に広がる「能登の里山里海」と呼ばれる地域は、古来より自然と調和して営まれてきたことが評価され、国連食糧農業機関(FAO)により日本で初めて世界農業遺産に認定された。
七尾市は、2004(平成16)年に旧七尾市、田鶴浜町、中島町、能登 島町の1市3町が合併して発足した。能登半島の中ほどの「内浦」に面した地域で比較的穏やかな気候から、かつては城が置かれ、能登地域を統治した都市である。七尾港は天然の良港で江戸時代は北前船でにぎわった。明治以降、ロシア革命まではロシアの沿海州と、第2次世界大戦までは朝鮮や中国東北地方との貿易が行われていた。
能登の伝統野菜としては、中島菜、小菊カボチャ、金糸瓜など17品目が「能登野菜」としてブランド化が進められている。また、七尾湾沿岸ではカキやハマチの養殖が広く行われるなど、豊富な海の資源から漁師町としても栄えた。
七尾市の玄関口であるJR七尾駅
七尾市の玄関口であるJR七尾駅
地域の特徴や住民性などによって
「農村RMO」の形は多種多様です。
各地域の事例を是非ご覧ください。
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