農村RMOを支える中間支援組織 岡山県 「みんなの集落研究所」

農村RMO事例
農村RMOを支える
中間支援組織
岡山県 「みんなの集落研究所」
「みんなの集落研究所」が支援する岡山県津山市上加茂地区の風景

中間支援組織が果たす役割

中間支援組織は、行政と地域の間に立ち、ネットワークづくりやコーディネート、政策提案、資金面の相談などを通じて地域のさまざまな活動を支援しており、農村RMOの形成推進の伴走者として期待されている。NPO、タウンマネジメント機関など第三セクター的なもの、自治体内部または社会福祉協議会が設置しているものなどがある。
特定非営利活動法人「みんなの集落研究所」は、岡山県に拠点を置き、県内の人口減少や少子高齢化などの課題を持つ中山間地域をはじめとした地域や集落を支援している。
岡山県

特定非営利活動法人「みんなの集落研究所」

特定非営利活動法人「みんなの集落研究所」(通称「みんけん」)は、阿部典子首席研究員を中心に2013(平成25)年に設立された。岡山県にある運営拠点は、岡山市の本所と津山市にある県北事務所の2カ所で、現在の職員数は9人(2人の非常勤を含む)。岡山県内のほぼすべての自治体内の地域を支援している。 活動は、「中山間地域および同様の課題を抱える地域への支援を行い、誰もが住み慣れた場所で安心して、希望を持って暮らせる地域を目指す」ことが目的。 事業内容は、①個人・家族の課題解決の仕組みづくり②集落・組織の課題解決の仕組みづくり③地域を支える人材の支援・育成。各地域の実情に合わせ、「地域運営組織の基盤づくり」と「地域自治づくり」の二つのアプローチで支援に取り組んでいる。
ふるさとづくり大賞団体表彰(総務大臣賞)受賞祝賀会
(2018〈平成30〉年3月1日)
ふるさとづくり大賞団体表彰(総務大臣賞)受賞祝賀会
(2018〈平成30〉年3月1日)

「みんけん」の一日に密着

中間支援組織はどのように地域の主体形成に貢献しているのか。2022(令和4)年8月24日、阿部典子首席研究員に同行し、「みんけん」の活動の最前線を取材した。

津山市上加茂地区の取り組みを支援

地区会議のミーティングに参加〈午前11時~正午〉
岡山県津山市北部に位置する上加茂地区の上加茂地区住民自治協議会は、津山市から「住民自治協議会事業」のモデル地区の打診があり、2008(平成20)年に設立された。「みんけん」は、17(平成29)年より同協議会の取り組みを支援している。
この日は、同協議会が近日中に開催する「農地の将来を考える加茂郷の今後を考える会」準備ミーティングに参加。同協議会の國米彰地域マネージャーと鳥獣害や草刈り、多面的機能支払交付金事業の事例紹介など、予定されているワークショップの内容を確認した。國米マネージャーは、NPO法人「スマイル・ちわ」の代表理事としても、雪かきや田植え、草刈りなど住民同士の助け合い事業も行っている。(ちわ〈知和〉は、上加茂地区内5自治会の内の一集落)
「みんけん」はこれまで同協議会の運営にあたり、会議のテーマやゴールの設定、会議進行、ワークショップの補助のほか、アンケート作成サポートや結果分析、部会活動のサポートなどを通じて活動を支援している。

上加茂地区の県外からの視察受け入れ対応〈午後1時~同3時〉
昼食をはさんで午後からは、京都府京丹後市の弥栄市民局や弥栄町区長連絡協議会の幹部一行の来訪を受け、予定している上加茂地区の視察に向けた事前打ち合わせがあり、國米マネージャーとともに参加した。
京丹後市は、小学校区を中心に実施する全員アンケートから地域課題を把握、解決できる新たな地域コミュニティーの支援に力を入れている。市内でも特に意欲的な弥栄地区から、「アンケートを実施し、課題解決を実行するにあたって先行する上加茂地区の現状を見たい」との要望があった。「みんけん」は京丹後市とも4年ほど前からつながりがあり、今回は視察のマッチングも支援した。
事前打ち合わせの中で國米マネージャーは、「物事を進めるときには必ず、今は困っていないと言う人がいる。その人に5年後はどうですか? と聞くと答えがない。困っていないと言う人にはこうした質問を繰り返し、地域の将来についてもっと考えてもらうことが大切」と地域運営のポイントを伝授した。
阿部首席研究員は、國米マネージャーが説明する上加茂地区住民自治協議会のこれまでの経緯や取り組み内容を中間支援組織として関与してきた視点から随時解説を入れ、アンケート結果の分析をどう地域振興のプランにつなげていくのかなどについて実務的なレクチャーを行った。
上加茂地区と京丹後市、弥栄地区幹部との視察の事前打ち合わせ
上加茂地区と京丹後市、弥栄地区幹部との視察の事前打ち合わせ
ミーティング後に参加者全員で記念撮影
ミーティング後に参加者全員で記念撮影


美咲町のまちづくりを支援

津山市上加茂地区より南西に車で1時間ほどの美咲町役場へ〈午後4時30分~同6時〉
「みんけん」は2009(平成21)年ごろより、人材育成研修、移住受け入れプロジェクトなどで津山市に隣接する美咲町への支援を開始。18(平成30)年度からは、岡山県美作県民局地域づくり推進課と協働し、美咲町ほか管内の自治体に対して地域運営組織の仕組みづくりもサポートしている。
津山市上加茂地区より南西に車で1時間ほどの美咲町役場へ。町長室で、青野高陽町長、村上伸二同町地域みらい課課長代理、森岡洋省「倭文(しとり)西まちづくり協議会」会長の3人と、美咲町のこれまでの取り組みや今後の課題について協議した。
美咲町は人口減少や高齢化が深刻で、直近の国勢調査では人口減少率が岡山県内でワーストワンだった。青野町長は、「減少していく人口と歳入に合わせた町政が必要。町民が地域で自主的に課題と向き合う小規模多機能自治の取り組みを推進していかなければ町が維持できない。皆が元気に取り組んでもらえるよう行政ができることは何でもやる」と話し、町内に13あるまちづくり協議会の会合には、議題に関係する町役場の職員を必ず出席させ、課題の共有と早期対応を図っている。「町役場だけでは地域の活動のすべてをカバーできない。『みんけん』に助けてもらって感謝している」(青野町長)
倭文西地区も急速な人口減少の問題を抱え、「みんけん」の提案で住民アンケートを実施した。アンケート結果の具体的な活用方法などについては前述の津山市上加茂地区の活動を視察し、現在は月に1回の共有会で課題やアイデアを共有している。倭文西まちづくり協議会の森岡会長は、「アンケートの意義は大きかった。他人事だったことが自分事になった。町役場の人が地域まで出向いてくれてありがたい。『みんけん』と町役場が一緒に地域の活動をバックアップしてくれる。最近は若い人が共有会に出てきてくれるようになった」とうれしそうに話した。

(右から)阿部首席研究員、青野町長、森岡「倭文西まちづくり協議会」会長、村上地域みらい課課長代理
(右から)阿部首席研究員、青野町長、森岡「倭文西まちづくり協議会」会長、村上地域みらい課課長代理


地域のワークショップ運営をサポート〈午後6時30分~同9時〉
この日最後の予定は、町内の打穴(うたの)地区が月1回開催している会合(通称「やってみん会打穴)の運営。美咲町役場から西へ車で約10分移動し、会場の打穴西公民館へ。先着していた「みんけん」のスタッフ2人と、地区内のエリア(里、上、北、西)ごとに置くコーナーの設営準備に入る。青野町長や当日の議題に関係する町職員も参加した。阿部首席研究員のあいさつの後、ワークショップがスタートした。
「みんけん」のスタッフが司会進行を務め、▽各エリア内の見守りを目的とした「つながりマップ」の作成▽鳥獣害防止対策▽ご長寿お祝い会▽LINEのグループ機能を活用した防災▽緊急電話マニュアル▽停電時対応マニュアル―など多岐にわたる議題を話し合っていた。このように住民同士が自由に話し合える状況になるまでには、全員アンケート実施に向けた話し合いやアンケート内容の検討と結果の共有など、多くのステップが必要だったという。
ワークショップが開かれている間、阿部首席研究員をはじめ「みんけん」のスタッフらは、各グループに交じって他地域の状況を紹介したほか、全体で共有すべきことを記録するなどのサポートを行った。
各エリアの「つながりマップ」(住民同士の交流状況を視覚化)の作成作業をする参加者
各エリアの「つながりマップ」(住民同士の交流状況を視覚化)の作成作業をする参加者
最後に話し合いの内容を全体で共有し、次回の議題を決定
最後に話し合いの内容を全体で共有し、次回の議題を決定

地域の自然治癒力を高めるサポートを 阿部首席研究員

同行取材をしたこの日、阿部首席研究員は前述の通りさまざまな関わり方で各地域を支援しており、一日を通して「みんけん」の地域に寄り添う姿勢と、地域への実務的な深い関与が感じ取れた。「みんけん」の活動は、住民ヒアリング調査、ワークショップの進行、実態把握調査、地域カルテの作成、住民アンケート調査など多岐にわたる。行政、地域がリーチできないところをカバーし、地域運営組織の自主的な活動と活性化に実務面で大きく貢献。中間支援組織が果たす役割の大きさと幅の広さを改めて認識した。
最後に阿部首席研究員に「みんけん」のこれまでの活動と今後について聞いた。

地域が主体的に今ある課題に向き合い、主体的に解決できる思考の転換・体質の改善ができる、いわば自然治癒力を高めるようなサポートが必要という思いから「みんなの集落研究所」を設立しました。
私たちが当初から注力したのは、「地域運営組織(RMO)」の可能性の検証です。岡山県高梁市宇治地区の取り組みを進める中で、この検証がこれまでのアプローチでは行き詰まっていた集落の課題解決の糸口になると確信しました。地区全員を対象にしたアンケートや話し合いを重ねていくことで、緩やかだけれどこれまでの意識の転換や地域の体制を革新的に改善できる。こうした思いで地域の主体形成の支援を続けてきました。
私たちが目指す地域の在り方は、地域の課題を「地域が主体」となって解決していくことです。これからも地域自らが持っている力を最大限に引き出す支援を行っていきます。 そして、地域支援という仕事の確立を目指します。

地域の特徴や住民性などによって
「農村RMO」の形は多種多様です。
各地域の事例を是非ご覧ください。
この記事を印刷する
農村RMO
タイトルとURLをコピーしました