すし米、ソバで農地再生-青森県黒石市

農村RMO事例
すし米、ソバで農地再生
青森県黒石市
国の重要伝統的建造物群保存地区「中町こみせ通り」
江戸時代の風情が色濃く残る
市内のリンゴ畑で雨のなか収穫の時期を待つ早生〈わせ〉ふじ
市内のリンゴ畑で雨のなか収穫の時期を待つ早生〈わせ〉ふじ

青森県黒石市大川原地区の概要

黒石市は、東部の山岳地帯が総面積の8割を占め、八甲田連峰に連なる麓の丘陵部は「つがる」「早生(わせ)ふじ」などの「黒石りんご」の産地である。津軽平野の東端に位置する西部は平たんで、良質な土壌を生かして「まっしぐら」「晴天の霹靂(へきれき)」「つがるロマン」などの「黒石米」が作付けされている。市全体の世帯数は1万3898、人口は3万1706人(2022〈令和4〉年7月末)。
大川原地区は、市の最東部に位置する山間部である。中野川沿いに25世帯の集落があり、そのうち半数が兼業農家。中野川沿いの中山間部を切り開いた棚田は、2021(令和3)年に指定棚田地域に認定され、棚田を中心とした振興策が推進されている。同地区で毎年お盆の時期に行われる「大川原の火流し」と呼ばれる精霊流しは、南北朝時代がルーツで、戦死者の慰霊と翌年の米の豊凶を占う祭りである。
青森県黒石市
大川原地区の棚田
大川原地区の棚田

「大川原地区中山間地域の会」

大川原地区は標高250メートルの位置にあり、寒冷のためリンゴの栽培には適さない。
コメの栽培が中心となるが、米価の下落とともに離農者と耕作放棄地も増加、水路も荒れていった。こうした状況を打開しようと、「大川原地区中山間地域の会」(高橋健一会長)は、2016(平成28)年に中山間地域等直接支払制度の活用を決意。
高橋会長は「この制度を利用すれば、農地を維持し、地域を守ることができる。機械の共同購入、環境整備が可能になる」と制度導入時の思いを語った。

農用地保全

3つの農村集落機能 生産 資源 生活
耕作放棄地でソバを栽培 ムツニシキの復活
同制度導入後、耕作放棄地の水はけを整備し、牡丹そばの栽培に転作が始まった。すし専米のムツニシキも有機栽培の生産に移行した。牡丹そばは、寒暖差の大きい大川原地区が栽培に適しており、コシがあり香りが良いので人気が高い。同地区内の飲食店では、この地で栽培された牡丹そばを食べられる。また、黒石市産のムツニシキは近年栽培が途絶えていたが、黒石市の主導で復活。現在、同地区の3軒の農家が栽培している。
大川原地区の牡丹そばの畑
大川原地区の牡丹そばの畑
地区内の飲食店で地元産の牡丹そばが食べられる
地区内の飲食店で地元産の牡丹そばが食べられる

地域資源活用

3つの農村集落機能 生産 資源 生活
棚田の活用、飲食店で牡丹そばの提供
大川原地区の棚田が、2021(令和3)年に農林水産省の「つなぐ棚田百選」に選定された。この資源の維持や活用を目的に黒石市と大川原地区が協力し、「大川原地区棚田地域振興協議会」が発足。「大川原地区中山間地域の会」の高橋会長が、同協議会の会長に就任した。
「棚田地域振興活動加算の制度を利用し、棚田案内の看板設置など観光や環境整備を進めたい」(高橋会長)。
令和3年に『つなぐ棚田遺産』に選定された大川原地区の棚田全景
令和3年に『つなぐ棚田遺産』に選定された大川原地区の棚田全景
大川原地区の稲田
大川原地区の稲田

生活支援

3つの農村集落機能 資源 生産 生活
デマンドタクシーの運行
大川原地区では、高齢化により運転免許の返納者が増加し、公共交通は1日数本のバス便のみで移動手段の確保が困難になっていた。この解決策として、地元タクシー会社に協力を依頼し、2020(令和2)年度から、デマンドタクシー(「大川原地区線タクシー」)を運行している。現在は週3日、1日1便で、大川原地区から黒石市の中心市街地の市役所や病院などを経由して往復。利用者は、大川原地区と隣の黒森地区に住む人に限定され、運賃は大人1回100円。乗車時に「大川原地区線タクシー利用者証」を提示する。中山間地域等直接支払交付金の「集落機能強化加算」を活用。
黒石市は、「地域包括ケアシステム」の22(令和4)年度の重点事業として、「黒石市地域ささえ合い活動促進事業」を進めている。通院や買い物などで交通手段の確保に日常的に困っている65歳以上の高齢者に年額5万円を補助する送迎・買い物支援、除雪などの助け合いや集会所などでの各種活動へ一定の金額を補助する。

すし専米「ムツニシキ」を再生 高樋黒石市長

黒石市の高樋憲市長は、「広報くろいし」の新年あいさつで、今年の重点取り組みの一つに「自立した経済力の確立」を挙げている。「黒石産品の国外への販路拡大やインバウンド観光の促進、農業・観光振興の推進」を進める市長に取り組み内容を聞いた。

市内で栽培されていたすし専米の「ムツニシキ」は、栽培が難しく生産者が途絶えていたが、8年かけて復活させることができた。粘り気が少なくあっさりした風味ですしにとても合う。香港のすし店が高価格で買ってくれるなど人気が高まり、青森県内のすし屋さんも取り扱ってくれるところが増えてきた。「黒石りんご」は、これからも海外へ積極的に輸出していきたい。台湾からはブドウの要望があり、シャインマスカットの生産者を増やし、台湾、香港へ輸出したい。大川原地区は、コメの有機栽培やソバへの転換で頑張っている。同地区の棚田が国の棚田指定を受けた。観光などにも活用し、活性化を図りたい。中山間地域は農業の専業は厳しく、兼業農家の拡大を目指す。地域コミュニティーでは、これまで地域包括ケアシステムを進めてきた。デマンドタクシーも引き続き行う。今まで取り組んできたことをうまく連携させていくと農村RMOにつながるのではないかと考えている。時間がかかると思うが、何とか方向付けをしたい。
高樋憲黒石市長
高樋憲黒石市長
『ムツニシキ』を取り扱うすし店に置かれるのぼり 青森県内の21店舗が採用
『ムツニシキ』を取り扱うすし店に置かれるのぼり
青森県内の21店舗が採用

今後の展開について 高橋健一会長

高橋健一会長は、当地区で先祖代々続く農家の8代目。「大川原中山間地域の会」の会長に就いて23年、現在4期目に入っている。今後の取り組みなどを聞いた。

大川原地区は標高が高く豪雪地帯で、(黒石市特産の)リンゴも栽培できない厳しい気候だが、日中の寒暖の差が大きく、コメやソバはおいしくなる。ソバは、水はけがよくないとうまく栽培できないので、水田からの移行はとても大変だった。現在、年間でコメを11トン、ソバは7トン生産している。全作物では33トン。若い人も入ってきてくるようになった。ムツニシキは、稲穂がすぐ倒れるなど栽培が難しかったが、今は栽培技術が上がって倒れにくくなった。牡丹そばは、10軒の農家が7ヘクタールの土地で生産している。デマンドタクシーは、免許を返納した人だけではなく、もともと持っていない人の利用も多く、これからも続けていきたい。棚田は草刈りが大変だが、しっかり守り、活用していきたい。
大川原地区の水田から転作した牡丹そば畑
大川原地区の水田から転作した牡丹そば畑

地域紹介~青森県黒石市

青森県のほぼ中央に位置する黒石市は、西に岩木山と津軽平野、東に八甲田連峰を望む美しい田園都市である。高品質のコメ(黒石米)とリンゴ(黒石りんご)の産地であり、温泉地としても有名だ。中心市街地にある中町の「こみせ通り」は、今も江戸時代前期の街並みが残り、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。「こみせ」とは夏の日差しや冬の積雪から人を守る木製の庇(ひさし)のこと。まとまった形で残されているのは全国でも珍しく、同地区は「日本の道百選」にも選ばれている。近年は地元のB級グルメとして、「黒石やきそば」と黒石やきそばにだしがかけられた「黒石つゆやきそば」が全国的に知られるようになり、観光資源となっている。
八甲田山の麓に位置する大川原地区の「大川原地区中山間地域の会」では、耕作放棄地をすし米やソバの栽培に転用するなど地域の活性化を図っており、取り組みを取材した。
黒石やきそば 平たくもちもちした食感の麺が特徴
黒石やきそば 平たくもちもちした食感の麺が特徴
地域の特徴や住民性などによって
「農村RMO」の形は多種多様です。
各地域の事例を是非ご覧ください。
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