ユズと水稲栽培で農地保全を-宮崎県西都市東米良地区

農村RMO事例
ユズと水稲栽培で
農地保全を
宮崎県西都市東米良地区
一ツ瀬ダムの眺め

宮崎県西都市東米良地区の概要

西都市内の山間部にある東米良地区は、明治時代に地区内の銀鏡神社の氏子集落を中心に村として独立した。東米良村時代には最大4500人の村民がいたと言われているが、一ツ瀬ダムの建設の影響を受け、耕作地と集落を失い、多くの村民が村外へ流出。1962(昭和37)年に西都市と合併したが、同地区には、国の重要無形文化財の神楽、鹿やイノシシの狩猟、ユズなどの山の幸を加工した食品づくりなど、歴史や信仰、地産の食文化が今も色濃く残っている。
同地区は西都市全体の面積の3割を占めているが、ほとんどの地域が険しい山と谷、一ツ瀬ダム湖となっている。人口は226人(2023〈令和5年〉1月)まで減少し、高齢化率も57.5%(同)と高く、地域の存続に向けた取り組みが必要となっている。
当地区で農村RMOとして活動する「東米良地区1000年協議会」を地区内の農家民宿に宿泊しながら取材した。
宮崎県西都市東米良地区
銀鏡神社
銀鏡神社
急峻(きゅうしゅん)な山々に囲まれた東米良地区 銀鏡神社境内からの眺め
急峻(きゅうしゅん)な山々に囲まれた東米良地区 銀鏡神社境内からの眺め

農村RMO「東米良地区1000年協議会」の設立

人口減少と高齢化の深刻な問題を解決するため、主に旧東米良村の地域住民が主体となり、2019(平成31)年より地域組織の改編や創生プロジェクトなどを計画。20(令和2)年に任意団体(同年非営利活動法人に)の東米良創生会が東米良地区内外の有志16人で設立され、『1000年続く村 東米良創生プロジェクト 循環型山村づくり』が始動した。同プロジェクトの実現に向け、22(令和4)年に「東米良地区1000協議会」が農村RMOとして設立された。
構成員は、東米良地域づくり協議会、東米良1区、2区、3区、NPO法人東米良創生会(事務局兼務)、西都市猟友会、銀上集落協定、農業生産法人株式会社かぐらの里、石川林業、株式会社廣松鯉家・米良産魚株式会社、社会福祉法人善仁会本部、西都市。

事務局を担当する「特定非営利活動法人 東米良創生会」は、①教育の推進、充実 ②伝統文化の継承 ③地場産業の発展および新規事業の開拓と誘致の三つの柱を基に「1000年続く村 東米良創生プロジェクト 循環型山村づくり」事業を推進しており、同会の定款で「現在および近未来に当面するさまざまな地域課題の解決をすることにより、東米良地区の村おこしに寄与するとともに日本国内の山村生活のモデルケースになることを目的とする」としている。
「東米良地区1000年協議会」は、循環型の山村づくりをテーマに掲げ、「村の住民500人は市民全体の豊かな生活を支える礎であり、住民全員が山の守り人である」との共通認識を持ち、以下の地域ビジョンの実現を目指している。

  1. 山の保全や山村における農用地保全活動を通じて維持される生態系を守ることで、生命の根源である水を守り、本集落に暮らす人々の生活の維持・発展に資するとともに、下流に暮らす西都市民の永続的な生活の保全・発展に寄与する。
  2. 地域内の住民は約200人だが、地域内産業、生活環境、伝統継承等を含む集落活動の維持のためには500人が必要。また、現在高齢化率60%を25%にするために若い世代の移住定住を促進する。
  3. このため、若い世代の生活スタイルに合わせた山村のIT化を主とし、既存の労働力の最大効率化と地域内産業の活性化および必要な労働力確保のための事業システムのIT化を目指し、福祉・市民活動等の地域力(集落活動力)の向上を目的とした支援組織の構築を行う。
現在、同協議会では、労働力部会、特産品技術継承部会、鳥獣被害対策部会、利便性向上部会の四つの部会を立ち上げ、それぞれの担務を推進している。西都市農林課は、これら四つの部会に個別の担当者を配置し、活動を支援している。

旧小学校を再利用した活動拠点「東米良仁の里」

「東米良仁の里」は、構成員である社会福祉法人善仁会(濱砂重仁理事長)が廃校となっていた旧銀上小学校の旧校舎を活用し、複合施設として再生した。高齢者のデイサービスを実施するホールや放課後児童クラブの部屋、コインランドリー、ドローンスクールなど、さまざまな住民ニーズに対応している。
東米良地区1000年協議会の事務局があり、協議会の活動拠点にもなっている。
農村RMO「東米良地区1000年協議会」の事務局がある「東米良仁の里」
農村RMO「東米良地区1000年協議会」の事務局がある「東米良仁の里」
東米良創生会が開講しているドローン学校(東米良ドローンスクール)の授業風景
東米良創生会が開講しているドローン学校(東米良ドローンスクール)の授業風景
「東米良仁の里」ではさまざまな活動が展開されている
「東米良仁の里」ではさまざまな活動が展開されている

地域資源活用

3つの農村集落機能 資源 生産 生活
地場商品の産品化 ユズで雇用も創出
地域資源の活用は、以下の取り組みを通じて展開を図っている(カッコ内は主体)。
  1. 農産物の流通・販売の体制整備(東米良創生会)
    住民ボランティアで実施しているオンデマンドカー等を活用した共同での農産物の物流体制の整備や、ネット販売、無人直売所の設置等、高齢者でも農業を続けることができる体制の整備
  2. 地場産品の商品化(東米良創生会、農業者、法人)
    ユズ、ジビエ、竹林等の地域資源を活用した商品開発の実施
  3. 遊休施設の再利用(東米良創生会)
    地区交流施設・キャンプ場・宿泊所・食堂の整備を行い、都市農村交流や地域外の小中学校生の生徒交流の実施、農泊や地場産品食材を使った料理の提供等の実施
「かぐらの里」の地場産品 ユズコショウ、ポン酢、ドレッシングなど
「かぐらの里」の地場産品 ユズコショウ、ポン酢、ドレッシングなど
「かぐらの里」代表取締役の濱砂修司氏
「かぐらの里」代表取締役の濱砂修司氏
協議会の構成員の農業生産法人株式会社「かぐらの里」は、地域で栽培されたユズだけを使い、地域資源のユズやトウガラシなどの農産物の生産・加工・販売までを手掛ける6次産業化をいち早く取り入れた。ユズコショウやユズポン酢、ユズドレッシングなど多くのユズ製品を作り、地場商品の開発に努めている。また、元棚田の休耕地をユズコショウに使用するトウガラシを栽培する畑にするなど、休耕地の再生にも取り組んでいる。事業の拡大に伴い求人も出しており、地域の雇用創出にも寄与している。
同社の濵砂修司代表取締役は、「この地域は縄文時代から人が住む豊かな土地で自給自足の生活が中心でした。近年は林業が盛んでしたが、木材の価格が低迷して苦しい時期が続き、どうすればいいか考え、この土地のユズに賭けました。いろいろな商品を考案し、全国を10年以上回って販売しましたが、ユズは国内でも産地が多く売ることが難しい商品です。しかし、歩かないと消費者のニーズが分かりません。苦戦が続きましたが、銀鏡地区のユズの品質の高さと有機栽培の取り組み、品目の多さが評価され、国内だけでなく、アジアやヨーロッパなど海外15カ国へ輸出するまでになりました。JONA(有機栽培を推進・普及する日本の機構)の認可も取っています。
これからのテーマは人づくりです。現在15ヘクタールの畑でユズを栽培していますが、ユズの栽培は、高い剪定(せんてい)技術が必要です。社内に剪定の資格認証制度を設け、剪定士の育成に取り組んでいます」とこれまでの苦労と今後の展望を語った。
山の駅「銀鏡」には地元の特産品が並んでいる
山の駅「銀鏡」には地元の特産品が並んでいる

農用地保全

3つの農村集落機能 資源 生産 生活
ユズの生産拡大 水稲の受託作業ができる体制を
東米良地区1000年協議会は、地区内の中山間地域等直接支払制度の集落協定(広域)の事務局を担当している。また、農用地の保全、営農の継続、休耕地の活用を推進するため、以下の内容で取り組んでいる(カッコ内は主体)。

  1. 労働力の最適化(農業者、法人、猟友会)
    農作物の管理や鳥獣被害防止の労働力を企業、農業者、漁師間で融通し、ベテラン農林業者の技術を継承するための見える化を。
  2. IT機器の導入(東米良創生会)
    農園管理や鳥獣の捕獲情報の共有等、労働力を軽減できる体制を構築する。
  3. 鳥獣被害防止の体制の整備(東米良創成会、各自治会、猟友会)
    有害鳥獣の個体数の調査や集落単位での柵の設置を行い、効率的に被害を防止できる体制を整備する。
  4. 作業受託体制の整備(東米良創生会、農業者)
    東米良創成会を中心に、水稲の受託作業ができる体制を整備する。
  5. 農道等の保全管理体制の整備(各自治会)
    生活道になっている基幹的な農道を中心に公民館単位で管理活動を行う。
ユズコショウに使用するトウガラシの畑に再生された元棚田の休耕地
ユズコショウに使用するトウガラシの畑に再生された元棚田の休耕地

生活支援

3つの農村集落機能 資源 生産 生活
デイサービス デマンドサービス
生活支援については、現在以下の取り組みを行っている。
  1. デイサービス事業、居宅介護支援事業
  2. オンデマンドカーの運用、乳幼児送迎支援
  3. 放課後児童クラブ、乳幼児支援学級運営
  4. 配食サービス、食堂運営
  5. コイン精米機、コインランドリー運営
協議会の事務局を担当する特定非営利活動法人「東米良創生会」の石川理恵事務局長は、「この地域には保育園や幼稚園がなく、事務局がある東米良仁の里はデイサービスの施設ですが、乳幼児学級の運営も行っています。
開講しているドローン学校のドローンを使って配食サービスができないか模索しています」と話す。
乳幼児の送迎支援に活用
乳幼児の送迎支援に活用
東米良創生会が2台所有するオンデマンドカー
東米良創生会が2台所有するオンデマンドカー
農家を再利用した宿泊施設も運営
農家を再利用した宿泊施設も運営
配食サービスや仕出し弁当も行っている
配食サービスや仕出し弁当も行っている
コイン精米機の利用度は高い
コイン精米機の利用度は高い
開講しているドローン学校にはさまざまな機種のドローンが使用されている
開講しているドローン学校にはさまざまな機種のドローンが使用されている

東米良のシンボル 銀鏡神社

銀鏡神社拝殿と宮司の上米良久通さん
銀鏡神社拝殿と宮司の上米良久通さん
東米良地区の銀鏡神社は日向神話に由来し、1489年に創建された。この神社に伝わる銀鏡神楽は、宮崎県では初めて国から重要無形民俗文化財として指定されており(指定名は米良神楽)、毎年12月中旬に3日間にわたって北極星を祭る星神楽から始まり、昼夜徹して神楽の舞が奉納される。一ノ瀬ダム建設で東米良村(当時)の多くの地域が水没して人口が急減したが、同神社の氏子たちが神楽の継承に尽力し、現在に至っている。
銀鏡神社の宮司である上米良久通氏は、「600年続くこの神社を預かる立場にいることはとても名誉なことです。(私や氏子の役目は)単なる文化の継承ではなく、ここで暮らしがあることを前提に地域の考え方を共有し広めていくことが大事だと思っています。コロナの影響も大きく受けましたが、ここに住んでいない方からも支援いただきました。(神楽の)映像を残しておくなど今できることをやり、理解者を増やしたいと思います」と神社を継承する責任の重さと覚悟を語った。
2022(令和4)年には同神社の神楽を継承する東米良の人々を描いた映画が全国で公開されている(『銀鏡 SHIROMI』)。
北極星を祭る象徴として神社の境内に立つ柱
北極星を祭る象徴として神社の境内に立つ柱
2022(令和4)年に銀鏡神社の神楽を継承する東米良の人々を描いた映画(『銀鏡 SHIROMI』が公開された。ポスターの舞の写真は、同神社宮司の上米良久通氏。
2022(令和4)年に銀鏡神社の神楽を継承する
東米良の人々を描いた映画(『銀鏡 SHIROMI』が公開された。
ポスターの舞の写真は、同神社宮司の上米良久通氏。

事務局長に聞く
人口減少や高齢化に負けない地域づくりを

農村RMO「東米良地区1000年協議会」の事務局として活動を推進している「非営利活動法人東米良創生会」の石川理恵事務局長にこれまでの歩みと今後の方針について伺った。

 「2020(令和2)年に東米良創生会を東米良地区内外の有志16人で設立し、『1000年続く村 東米良創生プロジェクト 循環型山村づくり』を始動しました。その際に 、“住民500人・高齢化率25%”を10年後の目標として掲げました。住民500人は、協議した結果、集落のことを人ごとではなく自分事とできる人数は、500人は必要だと考え目標にしました。地域の精神的支柱である銀鏡神社には縄文遺跡があり、山岳信仰や狩猟文化など、当地区は豊かな山の恵みの中で継続されてきた集落です。守りたい、残したいものがあるから変わることを恐れずに感謝の気持ちで今の環境を次の時代へつないでいきたいと思います。この思いの共有が、集落維持と形成の基本となるものだと考えています」

地域紹介~西都市

西都市内にある日本最大級の西都原古墳群
西都市内にある日本最大級の西都原古墳群

西都市内にある日本最大級の西都原古墳群
宮崎県西都市は県央に位置し、車で宮崎市街地から約40分、宮崎空港から約50分の距離にある。単独の自治体としては県内6番目の面積を有し、市内の7割の地域が山岳地帯である。温暖な気候と長い日照時間を生かした、シイタケ、ニラ、マンゴー、ゴーヤなどの農業や畜産業が盛んで、ピーマンは日本一の生産量を誇る。 かつて古代日向(ひゅうが)の都として栄え、『古事記』、『日本書紀』に登場する伝承地が市内に数多く残るとともに、日本最大級の古墳群である西都原(さいとばる)古墳群で知られている。九州最大の前方後円墳のほか、陵墓参考地がある。
宮崎県は全国屈指の養殖ウナギの生産量を誇る 西都市内にはうな丼の名店が多い
宮崎県は全国屈指の養殖ウナギの生産量を誇る 西都市内にはうな丼の名店が多い
地域の特徴や住民性などによって
「農村RMO」の形は多種多様です。
各地域の事例を是非ご覧ください。
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