「福祉農園」で農用地保全-岩手県花巻市 高松第三行政区

農村RMO事例
「福祉農園」で農用地保全
岩手県花巻市 高松第三行政区
花巻市風景
JR花巻駅付近より遠野方面を望む
花巻市内を流れる北上川の眺め 当地出身の宮沢賢治が命名したイギリス海岸
花巻市内を流れる北上川の眺め 当地出身の宮沢賢治が命名したイギリス海岸

岩手県花巻市高松第三行政区の概要

花巻市高松第三行政区は、JR新花巻駅から南東方向に車で10分の距離にある中山間の農業地域で、66世帯、166人(2022〈令和4〉年3月末現在)の小規模行政区である。
同区内には、平良木、母衣輪(ほろわ)、内高松の3集落があるが、スーパー、コンビニなど商店はない。
同地区の高齢化率は40%を超えており、近年、人口減少や高齢化、農業所得の減少による離農、耕作放棄地の増加が顕著で、コミュニティー機能も脆弱化している。
また、シカ、イノシシ、ハクビシンなどの獣害も多い。
岩手県花巻市 高松第三行政区

「高松第三行政区ふるさと地域協議会」の設立

全66世帯が参加 移住・定住者の増加 農福連携
人口減少と高齢化が進行し、農業所得が低迷。公共の交通機関がなく、高齢者の通院や買い物が難しい。「このままではこの地域が消滅してしまう」との危機感を抱いた高松第三行政区の住民6人が設立発起人となり、2008(平成20)年6月に「高松第三行政区ふるさと地域協議会」が区内の全66世帯を会員として設立された。
設立総会では、多数の参加者から、「なぜ新しい組織を作るのか。今までの組織の活動で十分」「どうせ失敗するのだからやめた方がいい」などの反対意見が続出したが、「発起人が責任を取る」と説得の末、設立に至ったという。
同協議会は、活動の柱を「農業」「福祉」「交流」とし、“足元にある資源と人材”を活用することをテーマに農林業の振興と生活支援の両方の取り組みを実施。徐々にUターンなどの移住世帯の流入があり(同協議会設立以降8世帯が移住)、高齢者や障害者の活動の場が確保されるなど、農福連携を通じて地域の活力が高まりつつある。

農用地保全

3つの農村集落機能 生産 資源 生活
福祉農園で遊休農地の活用、6次産業化、貸農園
同協議会では、会員が所有する遊休地を「福祉農園」として活用している。里山に自生している樹木(ガマズミ、ナツハゼ)の苗を植栽し、実が熟す9月下旬から約1カ月の時期に区内の高齢者や障害者、児童らが手作業で収穫を行っている。
“あなたが子どもの時に食べた木の実は何ですか?”をテーマにワークショップを開いて何を植えるかを相談。栗やアケビなどホワイトボードに書き切れないほど候補が上がったが、「酸っぱいものは健康にいいのでは」という意見が苗選定の決め手になったという。
同協議会の熊谷哲周事務局長は、「木の実の収穫は機械化できないので90代の高齢女性も重要な人手として活躍しており、この福祉農園は高齢者と農業を結び付けることができました。お年寄りも子どもと交流できるし、参加者はみんな笑顔で作業をしてくれます。子どもたちも楽しそうです」とうれしそうに語った。
収穫されたガマズミとナツハゼの実は花巻市内の食品加工会社でゼリーに加工され、特産品として市内の産直市場で販売されるほか、年2回、特産品を配送する「ふるさと宅配便」で地元を離れた同地域の出身者らに届けられている。毎年100個を売り上げ、これまで1万個以上販売されたという。
福祉農園全景 ガマズミとナツハゼが植栽されている
福祉農園全景 ガマズミとナツハゼが植栽されている
福祉農園のガマズミの実
福祉農園のガマズミの実
福祉農園のナツハゼの実
福祉農園のナツハゼの実
ガマズミとナツハゼのゼリー 1個税込み120円で販売
ガマズミとナツハゼのゼリー 1個税込み120円で販売
現在、同協議会が会員から遊休地の活用を依頼されて共同管理を始めた貸農園(17区画)が好調で、さらに2カ所の貸農園を準備中。貸し出し前は移住者からの申し込みがほとんどだろうと予想されたが、受け付けを始めると地元の農家からも借りたいとの要望が多かった。
「これは予想外でした。この農園では他の農家や移住者と交流ができるし、ある地元農家の主婦の方は、初心者の移住者に教えてあげると“先生”と呼ばれ、自分の農業の知識が役に立ったと喜んでいました。希望者が増えてきたので新しい貸農園を手配しています」(熊谷事務局長)
協議会が共同管理する貸農園
協議会が共同管理する貸農園

地域資源活用

3つの農村集落機能 生産 資源 生活
景観整備が移住者、関係人口の増加をもたらす
同協議会は、地域の景観も重要な資源という認識から、地域づくり活動が始まった2008(平成20)年以降、名勝や旧跡の整備保全にも力を注いできた。区内の平良木地域の猿ケ石川の右岸にある立岩は、切り立った岩場と茂る樹木が織りなす景観が美しいが、手前の河川敷のうっそうとした木々や草が眺望を邪魔していた。地域住民が長期間にわたる作業で取り除き、景観が復活。その景観を求めて移住する人も出てきた。
「紅葉や積雪の風景も素晴らしく、県外からも観光客が来るようになりました。立岩は貸農園からよく見えるのでこの景観を見ながら農作業ができます」(熊谷事務局長)
移住者を含め、こうした地域全体で集落の風景を取り戻す活動が評価され、20(令和2)年に同協議会が第15回「住まいのまちなみコンクール」(一般財団法人住宅生産振興財団など主催)で最高賞の国土交通大臣賞を受賞した。
景観が保全されている猿ケ石川の立岩
景観が保全されている猿ケ石川の立岩
地元自治会が立てた立岩の案内板
地元自治会が立てた立岩の案内板

生活支援

3つの農村集落機能 資源 生産 生活
独居世帯の見回り、買い物支援、配食サービス、除雪
地域内の生活課題の解決に向けた取り組みは、2014(平成26)年から以下の内容で開始した。
  1. 一人暮らしの高齢者などへの支援では、前述の「福祉農園」で生産された食材や加工品を活用した配食サービスを実施。
  2. 社会福祉協議会や大学と連携し、地元人材による独居世帯等の見回り。
  3. 通院や買い物などへの移動手段がない交通弱者を対象とした自動車による付き添い支援を16~17(平成28~29)年の2年間、社会実験した。この事業は、18(平成30)年以降は花巻市の事業として継続。18(平成30)年度には122件の利用があり、地域インフラとして定着した。この付き添い支援は、配食サービスとともに高齢者の見守り活動としても機能している。
  4. 高齢者世帯の除雪作業。
通院や買い物などの「外出支援」、見回りを兼ねた「配食サービス」に使用される同協議会の車
通院や買い物などの「外出支援」、見回りを兼ねた「配食サービス」に使用される同協議会の車

「集落機能強化加算」の活用 中山間地域等直接支払制度

「集落機能強化加算」は、中山間地域等直接支払制度の第5期対策として2020(令和2)年度から新たに設けられたもので、新たな人材の確保や営農以外の集落機能を強化する取り組みを行う場合に加算される。中山間地域等直接支払制度は、開始当初の1999(平成11)年は営農に関するもの以外に対応することを想定していなかったが、この加算措置の新設は地域コミュニティーの活動の範囲を広げている。
高松第三行政区を構成している平良木、母衣輪、内高松の3集落は、「集落機能強化加算」の活用を高松第三行政区ふるさと地域協議会に全面委託。同協議会は非農家を含めた全世帯参加の体制を整え、加算分を福祉農園の管理費や事務員の賃金、配食サービスの調理代、配達費、除雪支援の費用などに活用している。

志村尚一内閣府地域活性化伝道師に聞く

花巻市在住の内閣府地域活性化伝道師の志村尚一氏は、同協議会を設立当初から支援してきた。同氏に地域を活性化するにあたっての思いを聞いた。

地域を活性化する際に必要なことは、人を幸せにする環境をつくりたいという強い思いとそれを諦めないという覚悟だと思います。農村RMOがなぜ必要かというところから入らないといけない。共通の課題を解決するには、地域の皆さんのそれぞれの思いや事情に個別に寄り添うことが大事。そして人と人が感謝でつながること。お互いを尊重し合い、共に生きる「共生型地域コミュニティー」を構築しなければいけません。

これまでの成果と今後の抱負 熊谷哲周事務局長

協議会設立から14年。同協議会のこれまでの成果と今後の抱負について熊谷哲周事務局長に聞いた。

「福祉農園」や貸農園、景観形成の活動で関係人口が飛躍的に伸び、このところ毎年延べ1800人が当区を訪れるようになりました。立岩では、かなり遠くの県外ナンバーの車をよく見るようになりました。設立以後、移住者・Uターン世帯が8世帯あり、移住者が消防士や獣害対策のハンターとして活動してくれるなど、地域の新たな人材になっています。当協議会は任意団体のため、外出支援や配食サービスの車はまだ個人名義なので、社団法人を設立して車を法人所有にすることも検討しています。まだまだ課題がありますが、解決していきたいと思います。農村RMOの設立も検討しています。
福祉農園の展望台 通過する新幹線がよく見えて農園を訪れる子どもたちに大人気
福祉農園の展望台 通過する新幹線がよく見えて農園を訪れる子どもたちに大人気

地域紹介~岩手県花巻市

岩手県花巻市は、県の中西部に位置し、気候は内陸性気候により寒冷である。夏季はフェーン現象の影響で気温は30度を超えるが、冬季は北上盆地にあるため、放射冷却が効きやすく、氷点下20度近くまで下がることがある。
市西部の豊沢川沿いには、東北有数の温泉地である花巻温泉郷がある。詩人、童話作家の宮沢賢治は花巻市の生まれで、作品中に登場する架空の理想郷に岩手県をイメージしてイーハトーヴと名付けていることは有名。市内には詩碑をはじめ同氏ゆかりの地が多数あり、県内外から多数の観光客が訪れている。また、花巻市は日本三大そばの一つといわれる「わんこそば」発祥の地でもあり、岩手県を代表するモチーフが多い。
花巻市内の高松第三行政区で、「農業」「福祉」「交流」を柱に地域の活性化を目的に活動する「高松第三行政区ふるさと地域協議会」を取材した。
地域の特徴や住民性などによって
「農村RMO」の形は多種多様です。
各地域の事例を是非ご覧ください。
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