エゴマ、棚田で農地保全-島根県浜田市旭町和田地区

農村RMO事例
エゴマ、棚田で農地保全
島根県浜田市旭町和田地区
浜田市旭町の和田まちづくりセンターから眺める棚田の風景
浜田市旭町特産の赤梨  味は甘くみずみずしい
浜田市旭町特産の赤梨  味は甘くみずみずしい
和田地区の里山に咲くヒマワリ
和田地区の里山に咲くヒマワリ

島根県浜田市旭町和田地区の概要

浜田市旭町は浜田市の東南に位置し、市の中心地より車で約1時間、広島県との県境にある山間部である。和田地区は旭町のほぼ中央にあり、稲田が広がる里山の美しいところだ。産業は農業が中心で、主に稲作、シイタケ、桃を栽培している。桃は明治時代から栽培されており、固めの果肉と甘みが特長。「和田の桃」と呼ばれ、地区内の産直市場での直売には県外からも多数の来訪客がある。地区内を流れる清流の八戸川はアユ釣りで有名で、八戸川漁協では贈答用などでアユの販売、発送を行っている。
和田地区の世帯数は240で人口は475人、高齢化率は53.89%(2021〈令和3〉年9月)。島根県が運営する島根の郷づくり応援サイトの人口予測によれば、16(平成28)年の人口528人が、35年後の2051年には261人と半減する見込みで、人口減少と高齢化が急速に進行。米価の下落や高齢化により耕作放棄地も増加し、イノシシ、ツキノワグマ、サルなどの獣害も大きな問題となっている。
18(平成30)年に設立された「和田の未来を考える会」(任意団体)が和田地区の住民に行ったアンケートでは、「今一番気になっていることは?」との質問に対し、最も多かった回答は「農地の荒廃」だった。
島根県浜田市
地区内の八戸川でアユ釣りを楽しむ釣り客
釣り上げられたアユ
地区内の八戸川でアユ釣りを楽しむ釣り客(左)と釣り上げられたアユ

農村RMO「和田地区まちづくり推進委員会」の設立

和田地区では少子高齢化が進行し、農業者の不在や米価低迷により営農継続が厳しい状態となっている。こうした状況を打開し、地域全体の維持と活性化を図ることを目的として、中山間地域等直接支払制度の集落協定と連携する形で「和田地区まちづくり推進委員会」が2022(令和4)年、農村RMOとして活動を開始した。
地域の範囲は和田まちづくりセンター管内(旧和田公民館管内)で、「この地区に楽しく明るく、長く住み続けるための農家・非農家の垣根を越えた農地保全」をキーワードに農福連携も視野に入れた組織づくりを目指している。事務局は和田まちづくりセンターが担当。22年4月に同センターに着任した服部宣久センター長は、「個人の努力に頼らず、課題を見つけて住民の皆さんと解決していきたい」と語る。
3年間の実施期間の初年度である22(令和4)年度は、①将来ビジョン作成に向けた話し合い②まちづくり組織の再編協議(農地保全部会の新設)③課題の把握および解決策の検討④先進地視察・研修会の開催⑤将来ビジョンの作成―を実施。同委員会には、総務企画部会、健康スポーツ部会、ふれあい福祉部会の三つの部会があり、さらに農地保全部会の新設も検討している。
「和田地区まちづくり推進委員会」のミーティングに参加した皆さん
「和田地区まちづくり推進委員会」のミーティングに参加した皆さん

農用地保全

3つの農村集落機能 生産 資源 生活
耕作放棄地にエゴマを作付け
農用地保全は、中山間地域直接支払制度の「和田広域集落協定」が中心となって活動している。2018(平成30)年に和田地区全体の課題を洗い出し、解決策を検討する「和の会」が和田地区まちづくり推進委員会の傘下組織として立ち上がり、さまざまな事業を展開。その1つの事業として、地域の農用地保全と耕作放棄地対策を目的に水稲以外の転作作物を模索する「エゴマ部会」が設立され、エゴマの栽培者を増やす活動を推進している。
エゴマは収穫後、種と油を販売するが、シソ科のエゴマの香りをイノシシが嫌がるといわれ、近年この地区でも増加しているイノシシの獣害を防ぐ役割もある。
「和田広域集落協定」の岩谷欣吾代表は、「(農村RMOの活動は)補助金に頼るだけではだめで、制度が終了した後をどうするかが大事。エゴマは作りやすいが、刈り取りや脱穀などに手間がかかるので自動化に向いていない」と事業継続の重要性とエゴマ栽培の難しさを語った。
岩谷代表の畑で栽培されるエゴマ
岩谷代表の畑で栽培されるエゴマ

地域資源活用

3つの農村集落機能 生産 資源 生活
ガソリンスタンドを存続へ
和田地区内の唯一のガソリンスタンドの存続が、大きな課題となっている。タンクの法定耐用年数が近い時期に切れることから、「和田地区まちづくり推進委員会」は総会で、事業継続に向けた対策を進めることを満場一致で承認し、「和田給油所運営支援の会」を立ち上げた。「和田広域集落協定」の岩谷代表は、「和田給油所がなくなったら、遠方までガソリンの給油に行かなくてはいけない。自家用車だけでなく農作業にも大きな問題となる。今の一番の課題だ。残してほしい」と切実に訴えた。
「和田給油所運営支援の会」は、給油所支援を表明するステッカーを作成。和田地区内の約300台の車に貼付してもらうなど支援者を増やす活動を続けている。消防による給油所の検査が終了し、リニューアルオープンに向け準備が進んでいる。
給油所支援を表明するステッカー
給油所支援を表明するステッカー

生活支援

3つの農村集落機能 資源 生産 生活
「てごの和」 移動販売車による見守り
ふれあい福祉部会の傘下にある「てごの和」(“てご”は、島根県など中国地方の方言の一つで、“手伝い”の意味)は、地域住民が互いに助け合う有償のボランティア組織で2019(令和元)年に設立された。日常の家事で困っている人、空き時間を有効活用して地域に貢献したい人を結び付け、地域住民が互いに助け合い、元気で安心して暮らせるまちづくりを目指す。
作業の依頼は「和田地区まちづくり推進委員会」の事務局が受け、事務局から連絡を受けた「てごの会」の会員(登録時に支援可能項目を記載)が依頼者へ出向き作業を行う。作業に対する謝礼は依頼者が会員に直接支払う。高度な専門性や高い高所など危険を伴う作業の依頼は受け付けていない。
依頼を受ける作業は、草刈りや通路の除雪、畑の耕し、蜂の巣除去の屋外作業と、家の修理や掃除・片付けの屋内作業で、謝礼は1人当たり1時間1,000円(草刈り機などを使用は、機械代として1時間当たり500円が別途必要で、作業は2時間以内)。少量のゴミ出しや電球の取り換えは無料。
服部和田まちづくりセンター長は、「実績が積み上がっているが、もっと頼みやすく使いやすい会にして利用を拡大したい」と話す。
「てごの和」会員募集の資料
「てごの和」会員募集の資料


浜田市旭町内にある産直市場(「まんてん市場」)は、浜田市旭支所が民間事業者に運営を委託している。まんてん市場の移動販売車は、買い物弱者対策として定期的に旭町内を巡回。「和田まちづくり推進委員会」が、同市場の運営事業者である株式会社未来販売堂と見守り移動販売支援事業の協定を締結し、販売車が地域を巡回する際にお年寄りなどの見守りも担ってもらっている。
浜田市が運営を委託する産直市場の移動販売車 地域住民の見守りも行っている
浜田市が運営を委託する産直市場の移動販売車 地域住民の見守りも行っている

農村でもうける仕組みを 久保田浜田市長

浜田市の農業産出額は、近年水稲が減少しているが、生乳、牛が著しく増加している、市が栽培を振興している西条柿、ブドウ類も順調に増加。産出額全体は、2008(平成20)年から21(令和3)年までに約1.5倍に増えている。
久保田章市浜田市長に今後の農業政策について話を伺った。

市内の農業法人の後押し、県外の農業法人の誘致を積極的に行っている。農業法人の誘致は、人口、雇用、税収、その他付加価値など、市としてメリットが大きい。
酪農農家の誘致に成功したが、これは既に造成された工業団地への誘致というアプローチではなく、酪農農家にまず希望する土地を決めてもらい、その土地の地権者と市職員の交渉チームが譲渡について話し合うという方法を取った。(こうした手順を踏めば)移転後に問題が起きにくく、移住者は安心して来てくれる。現在、2000頭の牛の生乳は、ジェラートなどの加工品となり、農業産出額の増加に大きく貢献している。
新規就農者のUIターンの確保や支援も積極的に行っている。特に首都圏の人を誘致している。農村でもうける仕組みを作れば、移住者は増える。これからは農業だ。農村地域の取り組みをこれからも進めていく。

久保田章市浜田市長
久保田章市浜田市長

地域紹介~浜田市

島根県の西部に位置する浜田市は、2005(平成17)年に旧浜田市と旧那賀郡(金城町、旭町、弥栄村、三隅町)が合併し、新浜田市となった。東京23区とほぼ同じ面積で、人口は5万,920人(20〈令和4〉年7月末)。平均気温は県内の他地域と比較して高く、日本海沿岸部はスノータイヤが不要な温暖な気候だが、山間部の和田地区は豪雪地帯で、市内でも地域により気候が大きく異なる。 浜田港は、木材中心の輸入で発展し、1957(昭和32)年に国から海上輸送網の拠点として「重要港湾」の指定を受けている。現在、韓国との航路を有する国際貿易港であり、コンテナの取扱貨物量が近年、輸出入とも増加傾向にある。
浜田市は、豊かな漁場を有する山陰地方有数の水産業や国際貿易港があるなど、海に関する顔が注目されるが、平野部が少なく山林が市の面積の8割を占める山間地域である。農業は、兼業農家による水田農業が中心だが、米価の下落や過疎化、高齢化などにより荒廃農地が増加し、集落機能が低下するなど厳しい状況が続いている。市は、担い手や農地の確保、ブドウや梨、柿の3果樹に加え、有機野菜も振興作物とし、栽培振興、販路拡大の取り組みなど、農業振興に向けた対策を進めている。
市内には、農林水産省が保全整備などを目的として選定した「日本棚田100選」(1999〈平成11〉年)や「つなぐ棚田遺産~ふるさとの誇りを未来へ~」(2022〈令和4〉)年に選ばれた「室谷の棚田」、「都川の棚田」ほか多数の棚田がある。「坂本の棚田」で作付けされた「坂本米」は、鉄分を含んだ土壌やミネラルが豊富な水、日中の寒暖差などの条件に恵まれ、良質でおいしいと人気が高い。
島根県西部(石見地方)の代表的な伝統芸能である石見神楽は絢爛(けんらん)豪華で激しい囃子(はやし)と舞が特徴で、19(令和元)年に日本遺産に認定された。市内には50を超える神楽の団体があり、年間を通じて各所で上演されている。
旭町和田地区で、地域全体の維持・活性化を目的に農村RMOとして活動を開始した「和田地区まちづくり推進委員会」を取材した。
「都川の棚田」の一つの大屋形の棚田。石垣と緑の稲穂が美しい(浜田市提供)
「都川の棚田」の一つの大屋形の棚田。石垣と緑の稲穂が美しい(浜田市提供)
稲穂が美しい「坂本の棚田」
稲穂が美しい「坂本の棚田」
「坂本の棚田」で収穫された「坂本米」 おいしいと評判
「坂本の棚田」で収穫された「坂本米」 おいしいと評判
日本遺産認定の石見神楽。演目は大蛇〈おろち〉(浜田市観光協会提供)
日本遺産認定の石見神楽。演目は大蛇〈おろち〉(浜田市観光協会提供)
地域の特徴や住民性などによって
「農村RMO」の形は多種多様です。
各地域の事例を是非ご覧ください。
この記事を印刷する
農村RMO
タイトルとURLをコピーしました